(……なーんちゃって)
「…………ぎゃおお?」

今、あたしはモモンの木の上に登って、敵に見つからないようにじっと息を潜めている。
丁度真下では、標的を見失ったポケモンがのしのしとあたしの痕跡を探し回っている最中だ。

鼻息も荒くずしんずしんとじしびきを立てて歩き回る暴れ竜ポケモン、ボーマンダの頭部に目をやって、こんな簡単な罠にかかったその頭蓋骨の中身の粗悪さをふふんと鼻で笑ってやる。モモンの実の甘ったるい匂いで嗅覚を潰して、足跡も木の枝で消してやったから、これでいくらか時間が稼げるでしょ。

そもそも非力なあたしが正々堂々と敵を迎え撃つはずがない。あんなほそっちい棒と女の柔腕で自分の背丈ほどもあろうかという生物に勝てるわけない、大した抵抗も出来ずに頭からがぶりとやられて死亡だ死亡。
勝敗の見えている勝負にいどむのは、ただの馬鹿か少年漫画の主人公と相場は決まっている。
あたしは主人公じゃないんだ。無謀なことはせずにいのちは大事にするもんである。

「……ぎゅう」

太めの木のえだに寄りかかって、まだ下でうろうろしているボーマンダを暫く観察していると、奴は少しだけ首を左右に動かして、どかりと地面に腰を下ろした。
しかもな ぜ か!あたしが隠れている木の下にだ。

(まじないわー)

よりにもよってなんでこの木を選ぶかね!
ぎゅうぎゅうと口から不満そうな鳴き声と火の粉を洩らして不機嫌そうにしているこいつは、本当はあたしがここに隠れてる事が分かってるんじゃなかろうか。

真下にいるボーマンダに聞こえないようにこっそりと深い溜め息をつく。
こいつが諦めてどこかにいくか、あたしがボロを出さずに長時間ここで待機できるか、どうやらここからは持久戦になりそうだ。


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