1 「一緒にぶっ壊すか? 世界を」 *銀高しっぽり。スカ回想あり 土方は無事、退院したそうだ。 あれから俺は、あの男に会っていないし、真選組とも関わっていない。 関わっていない、のは少し違うか。 俺は、高杉のところにいる。 そもそも土方を抱いたのは、男を抱くという行為に興味があったからではない。 土方という男が、受け身のセックスを強いられたときの屈辱を容易に想像できて、愉快だったからだ。 男であり武士であることを誇りに生きる人間。 その根本を叩き折れば、清廉で初心とさえ言えるほど真っ直ぐなあの男が、どれほど我が身を忌み嫌い、苦しむか。 それを想像できる程度には、男同士の閨事を知っていたからだ。 俺がそれを知ったのは、この高杉の躯だった。 「アッ、ぎんとき、テメェもっ、動け……!」 「自分で動けよ。つうかテメーの尻の穴、ユルユルなんだけど」 「嘘つけッ、テメェの……アッ! デカすぎ……イィ!」 高杉は淫乱だ。 それは当時から知れ渡っていたことだった。桂は汚らわしい物を見るような目を隠しもしなかったし、辰馬さえ半笑いだった。自分も高杉を抱いたくせに。 高杉はほとんど毎晩誰かとセックスしていた。大抵相手は複数で、しかも行為を隠すことも忘れているようで、俺も何度か、下の穴に二本咥え、上の口で二本の陰茎をしゃぶる姿を見たことがある。あるどころか、そこに加わったことも一度や二度ではない。 俺のは他人より大きいらしく、二輪挿ししようとすると高杉は嫌がった。それを無理やり押さえつけて尻穴を裂いてしまい、桂にこっぴどく叱られたこともある。 こっちが勃たなくなったと知ると、高杉はたちまち興味を失くして俺の上からするりと降りた。情交の跡を隠しもせず、そのまま煙管を手に取る。 「なあ、男の前で糞したことある?」 「あるぜ。食わしてやった」 そう、こいつはそういう男だ。 抱かれているときは綺麗に鳴くのに、高杉は決して誰かに隷属しない。むしろ、組み伏せていいようにしたはずの男が隷属させられていくのを俺は何度も見た。この男は恥らったりしない。自分から喜んでひり出し、それを崇高な物として相手に与えるのに何の不思議も感じはしないだろう。 あの男は違った。 土方は違った。決して声は上げなかったが、屈辱の酷さに泣くこともできなかった。最後には、泣き崩れたけれど。 「なんだ、食いてェのか」 「まっさか。ごめんだね」 小便ならさせたことがある。 いつ夜襲を掛けられてもおかしくない敵意で張り詰めた空気の中で、高杉の下半身を裸に剥いて子どもにするように、後ろから脚を抱えて高く掲げた。 『ぎんとき、出てる』 『ここで天人来るといいなァ。できれば触手系』 『テメェもッ、あっ、ヤられちまえ』 弧を描いて地面に染みていくのを、二人飽きずに眺めたものだった。 「もう終いか」 「ったりめーよ、絞り取られるっつの」 肩に浴衣を引っ掛けると、高杉は不満そうに鼻を鳴らし、「これからどうすんだ」と尋ねた。 「……さあな」 そんなこと、わからない。 ただ、もう地上には戻れないような気もしていた。 土方を病院に残して出た後、少し遠出でもするかとバイクを走らせた。どこでもよかった。ただ、ひとりになれれば。 だが行く手によく知ったチビのシルエットを見つけてしまい、盛大に舌打ちしたものだった。このまま跳ねてしまおうかと思ったくらいだ。考えてみればそれが正解だったのかもしれない。事故処理は真選組が率先してやってくれただろう。 だが、それをしなかったのは、やはり俺も少しは高杉の『男を隷属させる』魅力に毒されていたからかもしれない。 明らかな仏頂面で高杉の前にバイクを止めたにもかかわらず、この指名手配犯は『飲みに行こうぜ』と呑気に辺りを見回した。近くでこの顔を晒さずに飲めるところを頭の中で探して一瞬で『ない』と結論し、呑気な幼馴染みの頭を引っ叩き、場所は提供する(俺のではなく、桂が昔使っていた隠れ家だったが)代わりに飲み代は出せと交渉した。 「飲み代出すなら、河岸も俺に選ばせろよ」 高杉は笑った。 「俺の艦に来い」 躊躇いはあった。 だが俺はすでに、こいつと飲もうとしている。 だったら場所なんて、どこでもいいんじゃないか。 あの男のいる世界に俺はいられない。 いる必要がない。 そう思ったら、なあんだ俺が高杉と一緒に行ったって特に事態が悪くなることはないじゃないかと納得して、俺は黙って高杉について来たのだ。 「一緒にぶっ壊すか。世界を」 高杉は煙を吐き出しながら、なんでもないことのように呟いた。 答えられない。 「嫌になっちまったんだろう」 土方のいない世界。 土方が俺を見ない世界。 どっちもいらない。 俺はどっちにも居着けないと、知っていたのに。 高杉といるほうがいいと、思ったんだ。本当に。 章一覧へ TOPへ |