「いらねえよ。なんにも」
高杉を抱き続ける坂田と、怒る河上








 河上を甲板に呼んだ。
 目が合ったら食い殺すと言わんばかりの形相を、他人事としか受け止められなかった。


「こないだの話だけどよ」
「……」
「俺はいらねーわ」
「ッ!」
「ついでに高杉もいらねえ。もうヤんねーから。そんだけ言っとこうと思って」
「……?」
「いやー、黙って出てけばオメーさんが安心すっかなと思ったんだけどよ。ヤローに脅されちってさ」
「なんと?」
「勝手に出てったらマワされちまうらしいよ。俺、突っ込むのは好きだけど突っ込まれんのは勘弁だからさ。大人しくしとくわ。ここなら少なくとも死ぬまで食いっぱぐれねーし」

「白夜叉……主がそれで納得するとは思えぬ」


 多少威圧感の減った河上が、探るように言った。
 そら信用できないわ。
 触るな、その代わりにって話を宙吊りにしてる間、ほとんど服着ないで朝から晩まで素っ裸で、高杉の躯弄ってたんだから。

「河上くん、言っとくけどね。俺の代わりはいくらでもいんよ? あいつにとっちゃ」
「それはわかっている」
「俺も飽きた。つかカラダ保たない。しまいにゃ取り巻きまで『抱いてくれ』って言い出すし」
「やれやれ……彼らにはきつく言っておこう」
「あのな、銀さんはザーメン発射機じゃねーの。さすがに萎えるわ」
「今はな」

 河上はまだ探っている。
 だが、もう理解させるのにも疲れた。

「またぞろ主の腐れ棒が始末に負えなくなったときに、主にちょうどいい相手がいたほうが、お互いよかろう」
「いらねえよ。なんにも」


 遠くにターミナルが見える。
 あそこに暮らして、新八や神楽と騒がしくやって、いろんな奴らとなんやかんやで親しくなったのなんて、ずっと昔のことなんだろう。

 なんにもいらない。

 俺はあの男のいる世界も、あの男のいない世界も受け入れたくない。


「俺みてえなニートにゃお似合いだろ? ここの連中もぶっちゃけニートだぜ?」
「拙者は表でも活躍中だがな」
「俺はニート同士でベタベタすんのも嫌だし? どっか、空部屋くれたらいいわ。地下牢でも拷問部屋でも、なんでもいい」


 本当に、心からそう思うのだ。


「あとはなんにもねえ。高杉にも不必要に会わねーし」


 あの男と比べてしまうから。
 土方を思い出すから。


「よかったら、手配してくんね?」

「了解した。手配しよう」


 河上が、そっと息を吐いた。

「主がここへ来たときに、何としてでも追い払うべきでござった」
「……そう?」
「主はもう、陽の目を見ないであろう。主はそれでよいとしても」
「……」


「土方は、主を探しておるよ」


「!?」


「言ったであろう。拙者は表でも活動していると」
「……そうかよ」

 だから、なんだ。
 俺は十分、あの男を傷つけた。




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