4 「いらねえよ。なんにも」 *高杉を抱き続ける坂田と、怒る河上 河上を甲板に呼んだ。 目が合ったら食い殺すと言わんばかりの形相を、他人事としか受け止められなかった。 「こないだの話だけどよ」 「……」 「俺はいらねーわ」 「ッ!」 「ついでに高杉もいらねえ。もうヤんねーから。そんだけ言っとこうと思って」 「……?」 「いやー、黙って出てけばオメーさんが安心すっかなと思ったんだけどよ。ヤローに脅されちってさ」 「なんと?」 「勝手に出てったらマワされちまうらしいよ。俺、突っ込むのは好きだけど突っ込まれんのは勘弁だからさ。大人しくしとくわ。ここなら少なくとも死ぬまで食いっぱぐれねーし」 「白夜叉……主がそれで納得するとは思えぬ」 多少威圧感の減った河上が、探るように言った。 そら信用できないわ。 触るな、その代わりにって話を宙吊りにしてる間、ほとんど服着ないで朝から晩まで素っ裸で、高杉の躯弄ってたんだから。 「河上くん、言っとくけどね。俺の代わりはいくらでもいんよ? あいつにとっちゃ」 「それはわかっている」 「俺も飽きた。つかカラダ保たない。しまいにゃ取り巻きまで『抱いてくれ』って言い出すし」 「やれやれ……彼らにはきつく言っておこう」 「あのな、銀さんはザーメン発射機じゃねーの。さすがに萎えるわ」 「今はな」 河上はまだ探っている。 だが、もう理解させるのにも疲れた。 「またぞろ主の腐れ棒が始末に負えなくなったときに、主にちょうどいい相手がいたほうが、お互いよかろう」 「いらねえよ。なんにも」 遠くにターミナルが見える。 あそこに暮らして、新八や神楽と騒がしくやって、いろんな奴らとなんやかんやで親しくなったのなんて、ずっと昔のことなんだろう。 なんにもいらない。 俺はあの男のいる世界も、あの男のいない世界も受け入れたくない。 「俺みてえなニートにゃお似合いだろ? ここの連中もぶっちゃけニートだぜ?」 「拙者は表でも活躍中だがな」 「俺はニート同士でベタベタすんのも嫌だし? どっか、空部屋くれたらいいわ。地下牢でも拷問部屋でも、なんでもいい」 本当に、心からそう思うのだ。 「あとはなんにもねえ。高杉にも不必要に会わねーし」 あの男と比べてしまうから。 土方を思い出すから。 「よかったら、手配してくんね?」 「了解した。手配しよう」 河上が、そっと息を吐いた。 「主がここへ来たときに、何としてでも追い払うべきでござった」 「……そう?」 「主はもう、陽の目を見ないであろう。主はそれでよいとしても」 「……」 「土方は、主を探しておるよ」 「!?」 「言ったであろう。拙者は表でも活動していると」 「……そうかよ」 だから、なんだ。 俺は十分、あの男を傷つけた。 章一覧へ TOPへ |