月花に謳う

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 温室にて。夜の温室は道端のランプがぼんやりと照らし出し、硝子を通して月光が室内に降り注ぐ。植物たちと曖昧な光が室内を幻想的に映し出し、昼の美しさとはまた違った美しさを見せてくれる。

 月の下が似合うと称された彼はガーデンチェアの上に脚を組んで、何枚かの書類が入ったファイルを口元に当てていた。


「――様?」
「ん?…ああ、ごめんね、アヤ。それから名前じゃなくて、月花でしょ」
「それは失礼しました。それで、月花様は何かお悩みですか?」


 文人は月花の後ろに回り、その長い髪を梳っていた。彼からの要望で暑いから結い上げて欲しいと言われ、三つ編みにした後に団子にしてまとめようかと思っている。


「そうだね、あの子のことが気になるんだよね」


 主のその言葉を聞いて文人はくすくすと笑った。この人が他人に執着するのは珍しいのだ。それだけでも十分なことなのだから。


「その方なら、会いましたよ」

「あれ、僕は名前も顔も教えてないでしょう」

「会って話したらすぐに判りました。だってそっくりですから。貴方の悪癖と一緒ですね」

「悪癖とは酷いな」

「一応、答え合わせしておきましょう。霜野悠璃くん、で間違いないですか?」

「正解だよ。どこで会ったの?同じ学年でもクラスが違うし、アヤは生徒会役員だから、会う機会なんてなさそうだけど」

「生徒会室で、ですよ。最近、学園が荒れているのはご存知ですか?」

「小耳に挟んでいる程度だけどね。具体的にはきいてないよ。この学園は生徒主体だし、アヤのいる生徒会も風紀もあるじゃないか」

「その中枢組織が機能していなくても、ですか?」

「なに?」

「こら、前向いててください」


 思わず振り向きかけた月花を文人が制する。櫛だって頭に刺されば痛いし、もしもそのなめらかな肌に傷でもついたらと思うと冷や冷やする。なので、月花の頭を固定しようとするが、その前に制止の声がかかった。




 
mokuji


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