月花に謳う

三章1





茜が言っていた、貰い物の薔薇ジャム。では、誰からもらったのか?
読まなくても支障ないです。ちょっとしたこれもネタバレの部類なんでしょうか?
微妙に茜視点です。


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 悠璃に薔薇ジャムを渡して数日後の昼休み。人気のない廊下を歩いていると前方から一人、こちらに向けて歩いて来る人物がいた。
 茜はそっと目を細める。相手もこちらに気付いたようで歩みを止める。


「こんにちは、新見」
「やあ」


 相手は若干皮肉めいた微笑を浮かべ挨拶をしてきた。小柄で愛らしい、ともすれば人形のような涼し気な容貌の同級生。藤宮香生徒会親衛隊隊長総括。彼の華奢な容姿からは想像できないほど、親衛隊をとりまとめる腕は確かな有能者。現三年生は曲者が多いが、その分、有能な人物も多かった。まあ親衛隊に関しては一部、自分の後輩が統制していると言ってもいいかもしれないが。


「新見、あれはどうなったかな?彼は受け取ってくれた?」


 あれ、とは。彼、とは。
 彼という存在に危険が及ばないように一部親衛隊は細心の注意を払っている。特に幹部職が言うときは決まって『彼』と表現される人物。そんなのは一人だけだった。
 霜野悠璃。自分が所属し部長職に就く園芸部にて、二人いるうちの後輩の一人だ。茜としても可愛がっている人物であり、向こうも慕ってくれている。彼は一部の親衛隊からひどく慕われている。
 香の言いたかったことには『霜野に薔薇ジャムは渡してくれた?霜野は受け取ってくれた?』暗にそういう意味がこめられていた。
 大切な後輩が他の者にも大事にされているというのは素直にうれしい。


「僕じゃ食べないからって渡したら受け取ってくれたよ。まあ最初は遠慮してたけど」
「だろうね。彼はそういうひとだもの」


 神妙に香が頷くのを見て、後輩の妙に不安定な部分があることについては気がかりだった分、茜もちいさく頷く。とても繊細な後輩だと思う。出会い頭の弱々しい印象が強いというもあるのだけれど。悠璃くんにはきっと触れるのも躊躇われるような脆い部分がきっと存在しているはずだと、直感的に分かる。きっと親衛隊のメンバーの何人かは儚い、という印象をあげてくれるに違いない。


「でも結果的に受け取ってくれたんだよね?ならいい。ちゃんと食事をとってるといいんだけど…」
「彼はどうも最近ある場所に入り浸っているようだけど、そこが彼の癒しになっていることを祈るよ。ま、アイツなら大丈夫。」
「知り合い?」
「後輩だよ」


 どこか、なんて無粋なことは訊かれない。香は自分が踏み込んではいけないラインがあることを知っているし、その先に干渉する気はない。あくまで彼とはよく言えば友人という関係であることを香は心得ている。親兄弟や恋人ではないのだから過干渉はすべきでない、と。そいう冷静に判断できるところが彼の有能な部分だった。そうだと分かっているからあくまでその入り浸っている場所というところにいる人物が危険でないか、それだけで十分な情報だ。
 だから知っていても茜は必要最低限の情報しか与えない。香も余計なことは訊かない。


「新見がそう言うなら大丈夫でしょ。」


 返答は微笑で。
 互いに悠璃を大事に思っているのだ。彼に害をもたらす存在を近づけるなどという思考は持ち合わせてはいない。可能な限り、今の彼には安心できる空間を、それは互いが望むことなのだから。


「あとでジャムの感想でも聞いておくさ」
「そこまでしなくていい。ああ、まずかったかどうかだけ教えてくれれば、それで、ね…」
「そうかい?」
「それじゃ。一応お礼は言っとく」
「どういたしまして」


 要件は済んだと茜の返答を合図に二人は歩みを開始した。まるでその場所で何事もなかったかのように。互いに会うこともしなかったようにして、互いの背は廊下の向こうへと消えていった。



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アンサー:香ちゃん

心配でしょうがない香ちゃんは悠璃が好きであろうものを、同級生の伝手で茜さんに渡してました。そしたら確実に手にわたるし、悠璃の状況が少しは知れるかなーと思ったからでした。

仲悪くないけど、二人ともサバサバしてるのでなんか殺伐としてますけど、ええ、仲が悪いわけじゃないんです。



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mokuji


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