月花に謳う

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五章5〜6の勉強会のときのマドレーヌのお話。
冬吾と歩による勉強会前の話。


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 冬吾は大抵、歩の部屋に行き、夕飯を作るのを手伝って一緒に食べるのが習慣になっている。歩の同室者も同席することもあるがその機会は少ない。
 夕食と一緒にいくつかの弁当用の作り置きを仕込んで、食後に歩の部屋でゆっくりしていたときだった。煎茶を一口飲んで息を吐き出した年上の恋人が出したのは友人の名前だった。


「悠璃くん、大丈夫かな…」


 ぽつり、とこぼされた言葉は純粋に心配する気配が滲む。そのことに嫉妬したりはしない。いや、時々嫉妬しそうになるけれど、悠璃のあの性質はどうしようもないし、お互い恋愛感情はないのだから嫉妬する方が馬鹿らしいのだ。


「悠璃も人に言ったりするタイプじゃないしな……」


 歩の言葉には同意する。それに先日、冬吾について小走りになって倒れかけたばかりだ。
 悠璃は転校生が来てから顔色が悪い。比較的穏やかな雰囲気の悠璃だが、転校生を前にするとひやりとしたもので。歩に対する態度を見ているから余計にその落差が目に付く。本人に自覚はないようだが、転校生や生徒会役員といるときは表情も身体も強張っていて、明確に拒絶を示している。冬吾でも転校生やら生徒会役員の相手は気疲れするのだからあんなに張りつめていれば疲弊するのは半ば当然と言えたのかもしれない。
 悠璃は困ったことがあっても真っ先に誰かに相談したり頼ったりするタイプじゃない。たぶん他人に頼るのが苦手なんだろうな、というのは今までの短いつきあいでも把握している。そんな危なっかしい彼だからこそ、手を貸したくなるのだ。


「悠璃くんさ、お弁当の量を減らして欲しいって言って来たんだよ。食べきれなくてごめんなさいって。」

「ああ、だから悠璃の弁当箱が一回り小さくなってたのか。もともと小食なんだし……でも歩よりちょっと少ないくらいは食べれたと思うけど。やっぱ食欲が落ちてるんだろうな…」


 冬吾は運動部でもあるし、結構食べる方だが歩は標準的な方だと思う。春先に食堂で一緒に食べていたときは一人前にいくかどうかくらいは食べれていたはずだが、今はその半分くらいなものだろう。




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mokuji


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