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五章1〜3での松坂が言ってた、親衛隊総括に会った話。
松坂視点で、普段の親衛隊での香。
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早朝、松坂は上司である風紀委員長である円堂秀嗣に呼び出されて風紀室へと向かっていた。指定された時間に定刻通りに到着し、扉を開けて一瞬動きを止める。委員長専用の執務机の前に佇む線の細い影があったからだ。小柄だがしゃんと伸びた背筋が凛としたものを感じさせる。
「失礼します」
「ああ、来たか。藤宮、彼がクラスでの護衛役を主に行うことになるだろう」
先日、委員長からクラスメイトの霜野と五十里の護衛を担うよう指示されていたから何のことかはすぐに判った。しかし、音に気付いてこちらを振り向いた人物はこの場に似つかわしくない。いや、親衛隊が起こした問題の後始末に出てくることはあっても何ら問題がないときに訪れることがない。それを踏まえると珍客だと言った方がいいのか。
「ふうん?君、僕のことは知ってる?」
涼し気な目元を眇めて、親衛隊総括である藤宮香は朝露を思わせる玲瓏な声で言った。美人と言わざるを得ない顔は真剣そのもので氷のように冷徹だった。その研ぎ澄まされたと言っても過言でない剣呑な雰囲気に松坂の背筋に冷や汗が伝う。
「はい、知っています。藤宮先輩ですよね」
「そう。じゃあ円堂、彼にも説明して」
「松坂、昨日話した護衛の件は分かっているな?それについてここにいる藤宮の協力を得て、親衛隊にも手伝ってもらうことになった」
「手伝うと言っても極一部だけれどね。完全に信用のおける者のみで徹底して行うし、そうでなくても制裁自体を失くすのは僕の仕事だから、未然に防げるように内部調査も行う予定だ。まあ、僕に反対してるやつらなんて分かってはいるからそいつらを見張るだけだけど」
そう言って香は肩を竦めて見せる。
「親衛隊と協力体制を敷くということでしょうか…?」
「概ね合ってるよ。ただ僕らは僕らの目的のために動くだけ、その上で風紀と利害が一致しただけ」
「まあ…」
淡々と言い切る香に秀嗣は決まり悪そうに口ごもる。彼も藤宮香が生徒会の信者ではないことは知っていたし、仕事ができるのだということも知っている。しかし、組織の関係上、互いが踏み込むことはなかったのが現状である。今更のように、都合がいいときだけ声をかけるような形になってしまったことへの後ろめたさに似たなにかを感じていた。それに他者からの紹介だというのもある。対象者の情報について情報収集をぬかり、見抜けなかったことも一因していた。