月花に謳う



18




 余談。

 数日後、瑞樹に呼び出された悠璃は入室してから第一声にピタリと動きを止めた。


「悠璃、いらっしゃい。一つ聞きたいんだけど、愛しの月花の君とはどこまでいったの?好きなんでしょ、彼のこと」
「へ……」


 油のきれたブリキ人形のようにギギギとぎこちなく固まっていた身体を動かし、楽しそうに笑う瑞樹を視界に収める。


「な、なんで、そのこと」
「やだなあ、俺、情報屋だよ?」


 言葉が出ない悠璃になおもニコニコと笑う瑞樹。悠璃は月花とのことが知られていたことを徐々に認識し、ぶわっと顔を赤く染めた。


「わ、いい反応」
「やだ、もう…見ないでよ…」


 思わず顔を腕で覆って蹲った悠璃と同じようにしゃがみこんで、瑞樹は髪の隙間から覗く赤い耳に触れる。途端、びくりと肩を揺らす彼があまりにも可愛くて笑ってしまう。
 瑞樹は悠璃と長い付き合いだから知っているのだ。悠璃の家系が惹かれたひとにひたすらに一途で、とことん惚れこむことを。


「もうやめっててばあ……恥ずかしいじゃん……」
「ええ?だって悠璃に春がきたんだよ、嬉しいじゃない」


 心底楽しそうに、そして嬉しそうに笑う瑞樹とは真っ赤に熟れて戸惑う悠璃という図はどこか対照的で兄が弟をからかうような微笑ましい図だった。
 その後も瑞樹はからかうように月花とのことを悠璃が羞恥から涙目になるまであれやこれやと聞いて構い倒していた。




87/106
prev next
back





×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -