月花に謳う



17




「簡潔に言えば、身内贔屓かな。昔から悠璃のことは知っていてね。それに、貴方と気が合うと思ったから。それで、悠璃とは仲良くしてくれてるのかな?俺は皇帝のテリトリーには入らないようにしてるし、悠璃も頑固でね、こっちにあんまり顔を出さないから」

「仲良くしてると思いますよ。今はお茶を一緒にしたり、ときどき一緒に昼寝をしてます。彼の瞳が夜空みたいで…それを会って見られるのを楽しみにしてます」

「そう、瞳のことも知ってるんだ?」

「知ったのは偶々ですけど。愛しいと思いますよ」

「ふふっ、うん。悠璃が貴方のお眼鏡に叶ったようで嬉しいな。悠璃には幸せになって欲しいからね。ところで、もう手は出した?」


 悠璃を身内だと称する彼のあけすけな物言いに一瞬息を詰める。


「……出してませんよ。」

「そう?悠璃は鈍いくらいだから、出してくれてもいいんだよ?」


 そう言われると逆に彼に触れ辛くなるのだが。そういう言葉をのどの奥に押し込んでみれば、瑞樹はニヤニヤと質の悪い笑みを浮かべているものだから、からかわれていることに気付いて息を吐き出した。


「まあまあ、そういうわけだから。悠璃に関する情報の提供ならタダでいいよ?俺は情報を集めることはできるけど、それを活用する術がないからね。渡りに船なんだ。必要な情報はそちらに送るよ、足りないものがあったら連絡して」

「それは良かった。そういえば、悠璃が自室に帰ってないって聞いたんですけど、もしかして――」

「あ、気付いた?ここのゲストハウスの一室に泊まってるんだ。どっかで野宿してるとかじゃないから安心して」

「それを聞いて安心しました」

「まあ相変わらず小食だし、眠れてないみたいだから、そっちに行ったときになんか食べさせといてくれる?食べさせないと食べないんだよね、だから貧血なんだっていつも言ってるんだけど」


 愚痴のようにこぼす瑞樹に苦笑し、了承する。己が知っている悠璃と瑞樹が知る悠璃の差が面白い反面、すこし羨ましくもある。
 そんなふうに互いの知る悠璃について話していれば、思っていた以上に時間が過ぎていた。


「思ったより話し込んじゃったね。約束通りデータは随時、専用の回線で送っておくよ。それから、学校でのサポート役として、貴方の従者を借りていいかな?悠璃も気に入ってるみたいだし」

「それは構いませんけど…」

「じゃあ、彼にも僕のことを言っといてくれる?」

「ええ。連絡先を教えても?」

「いいよ。今は生徒会も風紀も機能してないからね、貴方の鶴の一声が頼りなんだ。頼んだよ」

「もちろん。安心してくださっていいですよ。僕、気に入ったものは必ず手に入れる主義なので」

「悠璃のこと、任せたよ」


 取引成立だ、と学園の最強権力者と情報屋は密かやかに笑い合った。




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