月花に謳う



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「そういうことであれば、頂きます。一人で飲めそうになかったら誰かに譲っても?」
「もちろん。この間の薔薇ジャムも一人で消費するのが難しかったら誰かと食べてもいいんだよ」
「あ、すいません。薔薇ジャムの方はお茶会でもう食べちゃいました。美味しかったです。最近、もらってばかりですね…。いつかお返ししますね、茜さん。」
「いいよ、そんなの。先輩だもの。後輩を可愛がるのが仕事だからね。それに僕にとっては数少ない大切な後輩だしね。」
「そう言ってもらえて嬉しいです。あれですね、後輩冥利に尽きます」


 茜さんにそう言ってもらえるのは素直に嬉しい。すこし照れくさくもある。そんな俺を茜さんは目を細めて、幼子の頭を撫でるようにやわらかい手つきで俺の頭を撫でてくれる。こうやって甘やかしてくれるからこの人には甘えたくなるし、甘えすぎないようにしようと思うのだ。


「悠璃くんは可愛いからいいよ。もう一人は生意気だからね」


 例の幽霊部員のことだろうか。去年の花日記を書いていたし、後輩だというからには一つ上の二年生になるのか。


「幽霊部員さんが来たときには教えてくださいね、部長」
「彼が来てくれたらの話になるけれどね。そうそう、プリザーブドフラワー用の紫陽花は用務員さんにお願いしようか。僕たちが勝手に摘んでしまってもいいかちょっと分からないし、タイミングの問題もあるからね。部活として申請しておくから」
「お願いします、楽しみにしてますね」
「僕も楽しみにしてるよ」


 綺麗な紫陽花が集まるといいなあ。

 楽しみだと笑う俺を茜さんが穏やかな瞳で見つめていた。




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