月花に謳う



9




 そういえば。


「今日、机の中に手紙が入ってたんですよね。親衛隊からだと思うんですけど」
「親衛隊?うん?なあに、悠璃くん。それ、初耳なんだけど」


 あ。これ、墓穴掘った。

 すぅっと茜さんの周りの温度が下がった気がする。笑顔なのに怒気が漂っているのは決して気のせいではない。茜さんは穏やかなだけのひとではないのだ。


「ああ、今分かったなあ。そう、それで。その手紙とやら、僕に見せてくれるよね?」


 それ命令ですよね?促しではないですよね?
 鞄の奥の方にしまいこんでいた件の手紙を取り出し、微笑む茜さんにおずおずと差し出した。渡したくないと思ったのは親衛隊の手紙だからというだけじゃない。うん、茜さんの笑顔はいつも素敵だよね。笑顔の圧に屈してなんかないよ?


「ふうん?……嗚呼、これは見なくて正解だね。悠璃くん、これ僕が預かってもいい?」
「えっと、別に構いませんが……あの、何が書いてあったんですか?」
「知らない方がいいって言ったでしょ。もうこの手紙のことは忘れて。いいね?」
「でも、」
「もし何かあったら僕に連絡すること。いいね?」
「でも、茜さんに迷惑をかけるわけには――」
「いいね?」
「……ハイ。」


 断ろうとしたけれど、微笑を象る瞳が全く笑ってないことに気付いて即座に頷いた。この人に実行力があることは知ってたけど、笑みを張り付けたまま怒ることができる人らしい。ちょっと怖い。茜さんは怒らせないように気を付けよう…。


「うん、いい返事。それじゃ、この件は僕預かりということで。なにかあれば僕に必ず言うこと。それからまたこの手紙が届けられるようなことがあれば、そうだな…、風紀委員に渡して君は中身を見ないこと。風紀には僕から話を通しておくから。」
「……なんだか大事になってきてませんか?そこまでして頂かなくても……」
「いいの、大切な後輩の役に立ちたいから、さ。それにこういうときこそカーストでも利用しないとね。階級だけで言えば、上から騎士、華人、官人だけど、華人は保護対象の意味合いがあるから、実質は騎士と官人が役割上並んでるも同然だし」
「そんな感覚なんですね…」
「役職付きが多い三年生からしたら感覚的にはそんなもんだよ。強制力は階級順だけどね」


 へえ、と茜さんの言葉に相槌を打ちつつ納得する。



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