月花に謳う



6




 席に着いてから鞄の中から教科書やノートを取り出す。教科書や参考書は最低限にして鞄の中に突っ込んでいた。これも親衛隊に対する嫌がらせ対策だ。
 ふと机の中に手を入れてみれば、なにかが手に当たる。紙、のようななにか。教科書を朗読する教師の声を聞き流しながら、それをそっと取り出す。それは手紙だった。

 白い封筒、宛名のない手紙。

 今は親衛隊の嫌がらせもあって、机の中は常に空だ。ノートでも忘れ帰ったら罵詈雑言で埋め尽くされるか、千切れて無惨な姿になるのかのどちらかな気がする。机自体の被害は何回かあったが、あらかじめ教科書類は持ち歩くようにしてあるから被害にあったことはないのだけれど。
 そんな最中の手紙。どう考えても怪しいし、十中八九親衛隊からのものだろう。きっと今開封しても気分のいいものじゃない。しかし、このタイミングに送られたことに意味がある気がするし、“手紙”という形をとったことが気になる。別館に帰ったら開けようか、と考えても気が滅入る。

 昼休みに友人たちのおかけで浮上していた気持ちが少しずつ沈んでいく。口からは自然と溜め息がこぼれた。



* * *



「やあ、悠璃くん。来たね。」
「こんにちは、茜さん」


 部室に行くと、茜さんがちょうど読んでいたであろう花日記を片手で持ち上げなら挨拶をくれる。にこにこと笑っている様は本当に嫋やかなひとだ。


「最近、悠璃くんとはタイミングが合わずじまいだったからね。日記を見たら来てたのは分かってるんだけどね」
「一年と三年じゃ授業量が違いますし、俺は長居しませんからね」


 せいぜい花日記を片手に周囲を見回って記録をつけて終わりだ。最初は部室のロッカーに入れていた教材たちもゲストハウスに借りている一室に移してしまったし、少し前より来る頻度は確かに減っている。まあ梅雨だから水やりなんかも殆どないし。


「悠璃くんはマメでいいいいね。紫陽花も学内だけで結構な色と種類がありそうだ。これはどこで見たの?」


 茜さんが指したページを覗きこめば、そこには花吹雪という種類の淡い藤色をした紫陽花の写真。それに嗚呼、と頷く。
 花日記はデジカメで撮った写真をノートに貼り、日付と天気と感想をすこし書くようになっている。要は日誌に近いかもしれない。



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