月花に謳う



5




「その顔は食べてないな?」
「うっ……」
「貧血持ちなんだから、飯食わねえとダメだろ。鉄分とれ」
「…おっしゃる通りで。」
「今日のご飯もサラダだけみたいだし、悠璃くんさえよければお昼ご飯、つくるよ…?それに作り置きとかでよければ渡すし…」
「え、さすがにそれは申し訳ないです。」
「遠慮するなって」
「そうだよ!」


 この恋人たちはそろって面倒見が良い。社交辞令とかじゃなくて本心で言ってくれているから、その好意を無下にできないのだ。
 そうこうしているうちに、「ここで渡すようにしてもいけど、僕が冬吾くんに渡して、冬吾くんが悠璃くんに渡した方が確実だよね。」「そうだな」などと決定事項で話が進められている…。


「悠璃くん、好き嫌いとかある?」
「えっと、これと言ってダメっていうものは特に…。唐辛子とかこう、スパイスというか刺激物は得意じゃないですけど。え、というかやっぱり決定事項になってません?」
「どうせ放っておくと食べないんだろ」


 前科もあるし、食べるって言っても信用がないだろうなあ。それもあって親衛隊の子たちとの食事会が始まる理由となったのだし。


「悠璃くん、僕のつくったご飯、食べてくれるよね?」


 半強制的な問い掛け。けれど心配をされているのだし、その気持ちをやはり無下にはできず、ゆっくりと頷いた。


「やった!明日から一緒につくって持ってくるね。冬吾くんに渡しておくから受け取って」
「…本当にありがとうございます。」
「えー、気にしなくていいんだよ。こっちが好きでやらせてもらうんだから」


 にこにこと笑う歩先輩を冬吾も微笑ましく見守っている。歩先輩って癒し効果があるんだよねえ。


「あー可愛い」
「あっ、おい!」


 ふらっと歩先輩に近付いて抱きしめる。歩先輩も俺とそう身長は変わらないんだけどね。あわあわしてる先輩と後ろで「あーあ」と呟いている冬吾の落差も面白い。反応を十分に楽しんだら解放する。


「で、悠璃。体調はどうだ?」
「もう休んだし大丈夫だよ。眩暈もないし…。あ、走ったりしたりするのは駄目かな?」
「悪かったって。次からは気を付けとくから」
「ああ、冬吾を責めてるわけじゃないよ。ただ走るともう一回貧血を起こしそうなだけ…」
「それもそうか。帰りはゆっくり行くか。」
「そうしてくると嬉しいな」


 最近の疲れも溜まっていたのかもしれない。眩暈はないけれど、体がすこし怠いような気がする。でも先のように無理をしなければ大丈夫だと思う。
 その後は転校生に顔を会わずに済むように、行きと同じように人が多いルートを避けつつ、予鈴ギリギリに教室に滑り込んだ。危惧していた転校生の姿は教室にはなかった。



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