月花に謳う



4




「…は?それホントか?まさかせいとか――」
「それ以上言ったらその口縫い付けるよ、冬吾。庶務のアヤさん以外、話にならない」
「アヤさんってお前……いつ、仲良くなったんだよ…、この人タラシめ…。」
「うふふ」


 微笑む俺に冬吾は脱力して呆れた表情をつくり、歩先輩は「悠璃くんってば、やっぱり大物だよね」と苦笑いしている。


「それで、お前の理想のその人は一体どこのクラスなんだ?」
「僕も気になる!悠璃くんが言うんだもの、よっぽど綺麗なひとなんだろうなあ…」
「知りたいんだ?」


 顎に手をあて、より一層笑みを深めて見せる。


「教えててくれるのか、どっちだよ」
「残念だけど教えられないんだよね。でも今まで会ったひとのなかで一番綺麗なんだ。誰に聞いても同じ答えが返ってくるんじゃないかな」


 月花さんのことが他人に話さない。月花さんとの約束だもの。


「すごく気になるよ、その言い方…」
「まあ、転校生のことでごたごたしてるけど、悠璃が楽しそうならいいわ」


 冬吾の言葉に心配してくれていたことが分かって申し訳なくなる。本当に冬吾もだけど、俺の周りには優しいひとが多い。ときどきそれを実感して、恵まれてるなあって思う。


「ごめんね、冬吾。心配してくれて。でもそのひとのお陰でだいぶ救われてるところがあるから、安心して」
「ホントにな…。それと、さっき倒れたこと忘れてないか?なんとかしとかないとまた倒れるぞ」
「そうだよ、悠璃くん。ご飯ちゃんと食べてる…?」


 冬吾は呆れた顔をしているけど、歩先輩と同じようにこちらを案じるような色が滲んでいる。
 食事についてはきちんと食べているとは言い難い状況だから答えにくいところだ。もともと食に頓着しないところはあるが、それよりも食欲がないからあまり食べられていないのだけれど。それに転校生やら嫌がらせのせいで、精神的な疲労もあって食事を作ったり、用意したりする気力が足りないのも本音だ。




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