月花に謳う
2
「前から思ってたけど、お前もともと貧血体質だろ。前倒れたときもそうだったけどさあー。ちゃんと飯食って寝てるか?あ、いや、いいや。今は答えなくて」
「…そうして…今はちょっと、」
「分かってるって。歩、飯食お」
「う、うん。悠璃くん、ほんと何かあったら声かけてね」
「ええ」
目を閉じたまま、ぼんやりと二人の会話を聞く。歩先輩が最近読んだB級のミステリーについて楽しそうに冬吾に向けて話している。歩先輩は本の虫という言葉がぴったりで、図書室の専門書や洋書以外ならばほとんど読んでいるのではないかと思う。図書委員としても優秀で、司書さんと同じくらい本の内容や位置についても把握している。
「悠璃くん、大丈夫…?」
しばらくして、今度は窺うように訊いてくる歩先輩の声に苦笑する。声をする方を見てみれば、ソファの脇に膝をついてこちらを覗きこむ心配そうな顔があった。まだ少し重く感じる腕を持ち上げて、強張っている頬に指先を這わせる。
「もう大丈夫ですよ…。歩先輩が心配してくれたからですね」
「う、ちょ、悠璃くん、そういうのやめてってばあ。僕、そういうの耐性ないんだって!」
「えー。でも歩先輩だって知ってるでしょう?俺が可愛くて綺麗なものに目がないの」
「歩、諦めろって。それもう悠璃の性分だから。こいつ、すっげぇ人タラシだから。それと悠璃、歩をからかうのやめろって」
顔を真っ赤にする歩先輩の後ろで呆れたような顔で冬吾がこちらを見て溜め息をついている。ちなみにこの歩先輩を口説くようなことは会うごとに行っている。
しょうがないよ、冬吾の言うように性分なんだから。
ゆっくりと体を起こしてソファの背面にもたれかかる。歩先輩と冬吾は向かいのソファに腰を落ち着けた。
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