月花に謳う
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耐えきれなくなってどうにかしようと、混乱した頭で考えるけれど、やはり良くない方向に答えを出すもので。
「うぅ…」
月花さんの胸元に顔をすり寄せて、背を丸めるようにしてみれば自然と脚が絡む。反射的にびくり、と跳ねた足を月花さんの脚が絡めとるように追いかけてくる。あわあわと逃げようとすれば、腰を捉えられて密着する体勢に落ち着いた。余計に羞恥を煽るような形になって、墓穴を掘ったことを遅まきながら悟った。
「かわいいね」
頭上でくすくすと笑う彼の声。
ああ、なんでこの人はこう褒め殺してくるのだろう。心臓がもたないよ。
「悠璃、僕を見て」
「…はい」
そっと顔を上げれば、慈愛に満ちた表情の彼がいて。その表情を見ているだけで心臓が早鐘を打ち始めるのだから始末が悪い。
「うん、綺麗だよ。悠璃」
目元をゆっくりとなぞる指先。月花の黄金の瞳に映るのは悠璃の光を反射して星空のようにうつくしい濃紺の瞳。実際の空と彼の瞳とどちらが美しいだろうか。月花は逡巡して考えるまでもない、と結論を下す。
「ふっ」
ぽろり、と星空の瞳から涙がこぼれ落ちる。それに続いて、ほつりほつりとこぼれ始めた。
「どうしたの」
「もうだめです…きゃぱおーばーです……。」
「悠璃はシャイだよね」
「……もう黙って」
月花さんの腕のなかでより一層身をまるめて、せめてもの抵抗の意を示す。頭上からはころころと楽しそうに笑う月花さんの声が降って来ていた。その声は温室の頭上から降ってくる陽光みたいに温かくて、心の底から安らぐことができた。
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