月花に謳う
9
「へ?」
「夕方からここに来て、ご飯を食べて、そのままここで星を見ながら寝る。お風呂は自室で入って来てもらうようになるけどね。最近は晴れることも多くなったし、星も見れるんじゃないかな。泊りになってしまうけれど。どうかなあ?」
一息に言われた内容に頭が混乱する。夜に?星を見ながら?それも泊りで?
「うぅ…」
なんて魅力的な誘いなんだろう。
月花さんが笑いながら、こちらの指先をつかんで弄ぶ。反射的にその指先をいじり返しながらも思考する。
「ほ、ほんとにここに泊まってもいいんですか…?」
「いいよ」
それはさぞ美しいことだろう。美しい植物たちに囲まれて、隣に自分の中の至高の美を体現したようなひとが隣にいて、そのうつくしい人の声を聴きながら星空を見ることができる。
「悠璃、いい表情(かお)だね」
「ん、とどんな顔ですか?」
「欲しくてたまらないっていうような陶酔した表情。…そうだな、いつもと同じ綺麗なものを見たときの君の瞳だよ。きらきら宙みたいに輝いて――」
月花さんが俺の頬に手を伸ばし、彼の眼前へと引き寄せられる。
「好きだな、悠璃の瞳」
ただでさえ赤く染まり始めていた顔が、ぶわりと朱が広がり、そこから全身に熱が広がった。体温が上昇する。月花さんの瞳を見ることができなくなって、顔は捕らえられていて動かせないから必死に目線だけを逸らす。
「そういうの…恥ずかしいからやめてください……」
もう羞恥で最後の方の声は消え入りそうだった。
68/106
prev next
back
Copyright(c)template by mellowette