月花に謳う



9




「へ?」
「夕方からここに来て、ご飯を食べて、そのままここで星を見ながら寝る。お風呂は自室で入って来てもらうようになるけどね。最近は晴れることも多くなったし、星も見れるんじゃないかな。泊りになってしまうけれど。どうかなあ?」


 一息に言われた内容に頭が混乱する。夜に?星を見ながら?それも泊りで?


「うぅ…」


 なんて魅力的な誘いなんだろう。
 月花さんが笑いながら、こちらの指先をつかんで弄ぶ。反射的にその指先をいじり返しながらも思考する。


「ほ、ほんとにここに泊まってもいいんですか…?」
「いいよ」

 それはさぞ美しいことだろう。美しい植物たちに囲まれて、隣に自分の中の至高の美を体現したようなひとが隣にいて、そのうつくしい人の声を聴きながら星空を見ることができる。


「悠璃、いい表情(かお)だね」
「ん、とどんな顔ですか?」
「欲しくてたまらないっていうような陶酔した表情。…そうだな、いつもと同じ綺麗なものを見たときの君の瞳だよ。きらきら宙みたいに輝いて――」


 月花さんが俺の頬に手を伸ばし、彼の眼前へと引き寄せられる。


「好きだな、悠璃の瞳」


 ただでさえ赤く染まり始めていた顔が、ぶわりと朱が広がり、そこから全身に熱が広がった。体温が上昇する。月花さんの瞳を見ることができなくなって、顔は捕らえられていて動かせないから必死に目線だけを逸らす。


「そういうの…恥ずかしいからやめてください……」


 もう羞恥で最後の方の声は消え入りそうだった。



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