月花に謳う



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 あれから、時々月花さんと午睡をするようになった。そうやって何度か過ごすうちに気付いたことがある。

 一つ、月花さんの髪と瞳の色は自前だとうこと。髪の根元も睫毛も同じ白銀色だった。瞳もカラコンにありがちな縁取りもなく、綺麗な琥珀色だった。コンタクト自体していないみたいだし、眼鏡をかけているところを見たこともないので、たぶん視力はいいんだろう。

 二つ、月花さんは寝相がとても良い。俺を抱きしめるように眠りに就けば、再び目を覚ましたとき同じ体勢で寝ている。

 三つ、寝起きの月花さんは目覚めもいいけど、何より色っぽい。とろりとまどろむ双眸に甘い声で「おはよう、悠璃」と言われるから堪ったものじゃない。恋人に向けるかのように蜜を含んだそれをどうしても恥ずかしくなって、真っ赤になれば、その頬を撫でられて笑われる。そうして「かわいいね」までが一連の一セットだったりするから、起きるたびに撃沈させられるのだ。

 寝ている月花さんは本当に静かで、その美貌もあいまって本当に人形のようだ。白い陶器のような滑らかな膚に、絹のような銀糸の髪、薄い目蓋の奥にあるはちみつ色の瞳。本当に綺麗で、触れたくなる。でもそうすると起こしてしまいそうだからできないでいる。ただ、眠っているときはその腕で抱きしめてもらって、いつになく近い距離で触れられるのだからこの上ない幸せなのだ。
 それに、月花さんの腕の中はホッとする。今の俺にとって唯一安心できる居場所。悪夢も見ずにすべてを忘れて穏やかでいられる。
 ここ最近、転校生のせいでバタバタしているし、今も逃げ回っているだけで状況はそう改善したとは言い難いのだけれど。この温室だけは安寧の場だった。なによりも月花さんの存在に救われていた。

 そんなことが少しずつ分かり始めたある日。重ねた昼寝は放課後の放課後の三十分程度のちょっとした時間から、土日の三時間程度の昼寝が片手の数を超えた頃。


「ねえ、悠璃」
「はい。何でしょう?」


 寝起きのふわふわとした雰囲気のなか、白いシーツに向かい合って寝転んでいた。
 日はまだ高く、どこから迷いこんだのか、浅葱色の鱗粉をまぶし蝶はひらりひらりと舞っていた。
 月花さんが俺の目元を人差し指でなぞる。瑠璃の瞳をさらしてから月花さんがよくするようになった動作だ。この瞳の色が気に入ってもらえたのだろう。そのことに気付いたときは本当に安堵した。


「今度、夜へここに来てみるかい?」




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