月花に謳う
7
月花さんの顔がゆっくりと笑みを形作っていく。
「悠璃」
「…はい」
笑みが増々深くなる。そっと彼の顔が近付いてくる。反射的に目を閉じた。
額の髪をそっと払いのけられて、あ、と思ったときには額になにかが触れていた。ちゅっと小さなリップ音。
「あ、あ……」
「リンゴ飴みたいだね。とても美味しそうだ」
キャパオーバーして馬鹿になった脳みそが徐々に事態を理解し始める。顔がこれでもかというほど熱を持つ。鏡なんかみなくても顔が真っ赤になってるなんて明白だ。
月花は可笑しそうに笑って、追い打ちとばかりに、かぷ、とまろい頬に歯を立てた。
「なに、なにが起きて、」
「こら。現実逃避しない。こっちを見て、目を反らずに。そう」
月花の長い年月を閉じ込めたアンバーのような瞳の色が細まる。さら、と夕陽に照らされ黄金に変化した長髪が揺れる。
うつくしい人。俺の最愛。
恥じらいで赤く染まるその表情がとろり、と溶けて甘い笑みをつくる。
「たまらないね…」
何が?そう尋ねる前に月花にやわらかく抱き寄せられていた。
「悠璃。今度からその美しい瞳を隠さずに来て。その夜のような瞳を隠さないで」
「あなたがそう望むなら」
「それからもう一つ。眠れないのならここへ昼寝しにおいで。遠慮はいらないよ。この寝台も使っていいから。」
月花の白い指先が悠璃の目元をなぞる。
「この瞳に似つかわしくない隈が早く消えるように。ね?」
「ありがとう…ございます」
佳人は更に踏み込むことを許してくれた。その許可に心が躍る。なんて現金なものか。深まる繋がりに笑みも喜びも隠しようがない。
抱き込まれた腕のなかでゆるく縋りつくように背に手を伸ばした。
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