月花に謳う
6
「どうして隠れるの?出ておいで」
なぞるように撫でられる肩のライン。月花さんのあの細く、白いうつくしいあの手が自分の身体のラインぞなぞっているのかと思うと、なんとも言えないぞわぞわする感覚が駆け抜ける。
その手のひらが憎い。
月花さんの優しい手に、あまい声は毒だ。俺の理性をぐずぐずに溶かす。
「悠璃、やっとでてきた、」
はっ、とやわらかく息を呑む音が聞こえた。
身体を起こした悠璃を覆っていた純白のシーツがするりとその身体のラインに沿って滑り落ちた。ふわふわとした黒髪がシーツとの静電気に引かれて乱れ、伏し目がちな瞳は羞恥からくる涙ですこしだけ潤んでいる。眠っていたからなのか、ほんのりと色づく頬に、ぽってりと赤く艶めく薄い型の脣。しろのなかに浮かび上がる赤と黒のコントラストは鮮烈に脳に焼き付く。
そして――。
深さを感じさせるコバルトの双眸。それでいて硝子玉のように透きとおっている。涙のおかけでただでさえ美しい瞳が今は夜空のようにきらきらと煌めいていた。
思わずと言ったように月花の手が悠璃の右頬に伸びる。そのまま親指は目尻をなぞるように涙をぬぐい取る。
「あ……」
「悠璃」
くんっ、と息を呑む音がした。藍色のなかに不安の色がゆらゆらと揺れている。
――嗚呼、美しいな。
月花は確かにこのとき胸の奥に深く渦巻く感情が存在しているのを感じ取った。
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