月花に謳う
4
三段のプレートにはサンドイッチやスコーン、一口大のケーキが数種乗っている。飾りつけや、用意されたティーセットの陶器も美しい。食べるのが惜しいくらいだ。
そういえば。
「月花さん、ジャムを知りませんか?」
「ん?これのことかな?」
ひら、といつの間にか小瓶を手にしていた月花さんの右手が振られる。
「あ、それです。お世話になってる人に頂いたんです。なんだと思います?」
「悠璃が普通のジャムを持ってくるとは思っていないよ。」
「ふふ、ありがとうございます。素敵な褒め言葉ですね」
互いに美しいものには目がない。それを認める発言に、月花さんに近しい存在と言われたような気がして嬉しくなる。
「それ、薔薇ジャムなんですよ。食べたことはありますか?」
「ないね。そうするとスコーンに塗ってもいいし、ロシアンティーにしてもいいね。悠璃といると今まで知らなったものに出会えるから退屈しないな」
先の発言に続くように告げられた言葉に加え、向かいから手を伸ばされ頬を包まれたかと思えば、親指で頬をなぞるように触れられて、顔に熱が集まる。いつもより早い胸の鼓動は気のせい、なんかじゃない。
憧れのうつくしい人、だからというだけでなく、こういうときに自分が彼に恋情を抱いていると思い知らされる。陶酔するほどに彼の美しさには惹かれるけれど、それとは別の厄介な感情。ふわふわと熱に浮かされるように甘い感覚。
「悠璃、良かったら明日もここにおいで。ここの居心地がいいならベッドなんていくらでも貸すよ」
やわらかく微笑む彼に悠璃もまた、蕩けるように表情を破顔させた。
――余談。
月花は茶会を終え、そのまま悠璃を午睡へと誘った。最初は遠慮していたものの、布団へ押し込み、その上から規則的に手を叩いてやるとゆるりと目蓋が下された。
彼の遠慮がちなところは正直に好ましい。けれど過ぎる遠慮はこちらも心苦しくなる、というのは彼には甘えて欲しいと思うからなのか。甘やかしたい、と思うのは彼の性格や表情によるものだろう。学校でも彼は周りに甘やされていそうな気がして、それを想像するとすこし可笑しくなる。
「ゆっくりおやすみ、悠璃」
閉じられた目蓋の奥の色が黒でないことを知り、月花が更に甘やかそうとするまであと数時間。
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