月花に謳う
11
「……君はすこし、僕の知っているひとと似ているみたい。」
「そうなのですか?」
「うん、なんとなく解った気がする」
呟くように言ってから、にこやかに微笑む庶務にこてりとちいさく首を傾げる。
「こちらの話。気にしないで」
そう言い募る彼に彼がそう言うのなら、と納得して口内の飴玉を転がす。
「そうそう、霜野くん。どうせ同じ学年なのだし、敬語も様づけも要らないよ」
「いいんですか?」
先ほどの独り言のようなものを除いて敬語のない口調へからりと変化する。庶務―水無月文人はくすり、と口元に手を当て笑った。
余談だが、庶務は俺と同じ一年だがクラスが違うのだ。
「君ならいいよ。あの転入生とは違うでしょ」
そう言ってもらえたことが嬉しくて。こうして彼と距離を縮められるのなら、今回連行されるのも悪くなかったかもしれない。そう思えてくるくらいの、俺の美しいものへの執着心を香ちゃんあたりが見たなら呆れ果ててそうだ。
「じゃあ、なんて呼ぼうかな。文人さん?」
「ちょっと硬いかな」
「んー、じゃあアヤさん……かな。」
「うん。それがいいね」
にこりと笑うアヤさんに連られて笑う。
ちなみにさん付けなのはなんとなくだ。綺麗できっちりとした感じの彼にちゃん付けは似合わないのだろうし。
「いつも転入生から逃がしてくれてありがとう、アヤさん」
「いいえ、どういたしまして。いつも顔色が悪そうだし、機嫌がいいような表情ではなかったからね。人として普通のことをしただけだよ」
では、他の生徒会役員はどうなるのか。恋は盲目とかいつかの台詞が浮かんで、なんと馬鹿馬鹿しいと吐き捨てる。どちにしろ彼らのことはどうでもいい、好みでもないし。
それからしばらくの間、キッチンにこもって談笑に花を咲かせたのだった。
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