月花に謳う



10




「お茶が飲みたい!」


 生徒会室に入室して早々、転入生の第一声がこれで、とりあえずの行動が決まり、いつもお茶汲みをしている庶務に誘われてキッチンに入った。
 生徒会室の執務室、キッチン、仮眠室。この三つまとめて生徒会室なわけだが、これらは全て施錠可能なドアで区切られているため、個々が独立した空間。つまり、今いるキッチンは安全地帯だ。


「転入生に連れて来られて疲れたでしょう?こんなものしかありませんが良ければどうぞ」


 庶務がそう言って差し出す掌の上に乗る飴の包み。ライトグリーンのそれはマスカットの写真が印刷されていた。その優しさと庶務からの行為という事実が沈んでいた気持ちをすこしばかり上昇させる。


「ありがとうございます」


 くちの中に放り込めば、歯に当たってからりと音を立てる。その音と味、それから透き通る飴玉の色を思い出して楽しむ。飴は透き通っていて、たくさんの色と数を集めれば綺麗だと思う。豊富な模様や色は愛らしくもある。
 そんなことを考えてみれば、最近忙しくて出来ていなかったコレクションになるものを探してみようか、と思考が巡る。
 ゆるむ口元と目元は優しく弧を描き。それを見ていた庶務が同じく、優しくこちらを見つめていることに、想いを馳せている悠璃は気付かなかった。


「霜野くん、今日はなにを飲みますか?」
「紅茶を。……庶務様の淹れるものが美味しいので」


 庶務の声に意識をもどした悠璃は先程よりあまやかに微笑んでリクエストする。庶務は可笑しそうにクスクスと笑った。
 そんな子どもっぽい笑い方も存外似合うなあ、なんて考えて。やはりコレクションになってはもらえないだろか。と思考は一周する。


「ふふ、ありがとう。でも僕の腕じゃなくて単に茶葉がいいだけかもしれないよ?」
「いいえ、庶務様の腕です」


 即答に加えての断言。庶務が困ったように微苦笑を浮かべた後、すこし躊躇うようにしてその口が開かれた。



57/106
prev next
back





×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -