月花に謳う



6




 他人に触られることが嫌いだ。
 自分から触るのならまだいい。けれど他人から、故意に触れられるのは嫌悪を伴う。
 もともと、他人との交流を進んで深めるような幼少期を過ごさなかったからかもしれない。幼い自分は他人に近づく術すら、知らなかったのだ。でもそれは、綺麗なものに酷く惹かれ始めたときから。また成長するにつれて、だんだん他人と接し方を憶えていった。
 コレクションの子たちに接するとき、愛でることのできる喜びはある。けれど確かに、心の奥底で小心な自分がいるのも事実なのだ。
 なにが言いたいかというと、コレクションの子たちに自ら触れるときでさえ、嫌悪こそ抱かないが本当に僅かばかり躊躇いに似た、正の感情とは言い難いものを抱くのだ。

 つまりは。嫌悪している転校生に触られるということは、とてつもない不快感を抱かせ、精神を摩耗してしまう、ということ。


 転校生に拉致される頻度は冬吾より俺の方が多い。強いて言うなら授業中は連れ去られないことだ。と言っても、それもいつまで続くか分からない。
 最近、彼が俺の前に現れる頻度が増しているのだ。そのお陰で生徒会といる時間も増え、親衛隊からの目は厳しさを増すばかり。

 ああ、でも良いこともあった。

 庶務様がさりげなく俺の方から意識をずらすよう話題を変えたり、隙を見てその場から離脱を手伝ってくれたり。さりげなく生徒会と転校生の相手をしながらだし、当の本人たちの前でも話しかけられず。今のところ、お礼を言う機会がない(もとい接触してみたいが、接触する機会がないとも言う。いつか絶対お礼を言いたいし、接触したいものだ)。
 他にも、コレクションの子たちから寮監(寮の管理人さんで寮の入り口の管理人室に常駐している)さんに預けられた俺宛のメッセージとプレゼントをもらったりしたことだ。純粋に心配されていることも、俺が気に入るだろうものを選んで送ってくれたのもすごく嬉しい。そうして申し訳なくも思うのだ、心配をかけてしまっていること。
転校生のことで明らかなダメージを喰らっていても、救いはあるのだ。
 それに。
 月花さんと、唯一のひとに会えることは大きかった。あの空間とあのひとのいる場所は心の傷を癒してくれる。


 でも、それじゃ足りないんだ。根本的な解決にはならない。



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