月花に謳う



5




 話をしていくうちに悟ったことと分かったことがある。

 一つ、彼は一切の素性を明かす気はないし、それについての話題も極力避けること。二つ、温室に訪れる際は事前に連絡を入れること。三つ、温室のことは誰にも言ってはいけないし、連れて来てもいけない。四つ、暗くなるまでには温室から帰寮すること。また、授業はきちんと出ること(要はここをサボる場所にしないことだ)。

 簡単に言えばそのくらい。でも、これには一つ、問題があって。


「あの、俺はあなたを何と呼べばいいんでしょうか?」
「うん?悠璃の好きな呼び方で構わないよ」
「え、えー…」


 ぐぅ。変な声を出して唸る。彼を見てぱっと思いついたものがあった。


「本当になんでもいいんですね?」
「好きに呼んでくれていいよ」
「では、『月花』、と」
「ゲッカ?月の下?」
「月に花の月花です。だって髪と眸の色を見たときにふっと思いついたんです。――月下美人が」


 夜の闇に発光するような純白の大ぶりの花弁、あまい芳香、月の下に一晩だけ花開く。凛とした佇まいで儚く強く、美しい。それが俺の月下美人の印象。
 ぴったりだと思ったんだ。白銀のような髪に黄金の瞳や白皙、美しい容貌。しゃんと伸びた背筋を持つ、そんな彼に。
……それに。彼はきっと月光のもとがよく似合う。


「月下美人じゃ長いし、月下なら普通に月の下だけの意味になってしまいますから、だから月の花で月花。」
「なるほどねー…」


 納得したのか、月花さんも微苦笑を浮かべている。


「では月花さんとお呼びします」
「分かった。僕は悠璃のままで通すけど、いい?」
「無論です」


 俺のなかで貴方は至上だから。最上で唯一。その絶対の貴方がそう決めたのなら、俺はそれに従うだけ。むしろ名字じゃなくて俺の存在である名前の方を呼んでくれて嬉しいくらいだ。
 至上に俺が出会えることはないと思っていたから。月花さんに会えたことがどれほどの喜びだったか。それは言葉ではいい表せないくらいには。浮かれてしまう。だから、別れ際、これが夢なんじゃないかと錯覚を起こしてしまって。


「また、」


 口内の水分がすべて干上がってしまったみたいに。からから、からから。声が嗄れる。


「来てもいいですか」


 彼は静かに微笑んだ。



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