月花に謳う
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「お茶を一緒にどうだい?ちょうど今から休憩にしようと思っていたんだけれど。ね?」
手をそっと握られ、やんわりと引かれる。大人しくついて行った。
青々とした緑のカーテンを抜けて、温室の中心であろう場所へたどり着く。中央は円状にくり抜かれ、そのなかを十字の道とそれが集合する中央は円状で、天蓋つきの大きな白い寝台が置かれていた。くり抜かれ、四つに区切られたところは水に満たされているようで、青い水面と蓮の葉が浮かぶというのが交互になっている。このひとはここで生活をしているのだということが窺えた。
「おいで」
くいっと手を引かれて、その十字の場所を渡る手前、道の脇にセットされた丸テーブルと椅子へと案内された。
「紅茶は飲める?甘いものは?」
「…どちらも大丈夫です」
席に着き、ティーポットカバーを外し、現れたティーポットの美しさに思わずじっと見つめてしまった。
白い陶器の上、濃い灰…鈍色と言った方がいいのか。その色が精緻な幾何学模様を描いている。簡素だけれど品があって、模様を占める面積に反して派手な印象を与えない。綺麗なティーポット。俺ならコレクションに飾るのと使うの、二つをそろえる。
「どうかした?」
「え、いえ……あんまりにもこの陶器が美しいものですから」
遠慮がちに告げると、佳人の瞳がまるく見開かれる。
「美しい?本当にそう思う?」
「ええ。コレクションに一つ欲しいくらいには」
はっきりと頷けば、彼はさも可笑しいという風に笑い始めた。口元に手の甲をあてがい、声を殺して笑う。その様も上品で、こんなときでもこのひとは美しいのか、とぼんやりと思う。
「ふっ、キミは面白いね。ああ、でも気に入った。またおいで。これと同じ模様の陶器がいくつか余分にあるから、キミにあげる。」
「本当ですかっ?」
「うん、本当本当」
ガタンと音を立てて席を立つほどの俺の食いつきぶりに、彼はくすくすと笑った。
「このティーポットはあげられないけど、小皿とか椀とか、マグとかね。そんなに気に入ってもらえたら作ったひとも喜ぶんだろうけど」
「ありがとうございます。本当に綺麗だったから、手元に置きたいと思ってたところでした…」
茶器を見下ろす悠璃の睫毛がそうっと伏せられる。ひどく優しい眼差しにゆるりと弧を描いた口元はさぞ愛しいものを見るように。
「キミみたいな子なら歓迎だよ。どうやら同じ趣味を持つもの同士のようだからね」
「え?」
ふふ、と佳人は意味ありげに微笑む。
「さあ、お茶を飲もう。このブレンドティーはおいしいよ」
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