月花に謳う
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同日、深夜。静まりかえった学園、それも旧ゲストハウス施設の廊下を歩く者がいた。瑞樹も廊下の窓からこちらへ向かうペンライトの明かりを確認していた。
出力機から数枚、紙をプリントしてファイルにつっこむ。フードをかぶってキャスターにどっかりと背を預けた。
今からするのは取引だ。相手に軽く見られたら溜まったものではなかった。
小さな物音。それから、変にリズムのついた五回のノック。
どうやら、待ち人が来たらしい。これは瑞樹が指定した彼だけの合図に他ならない。
「どうぞ、いらっしゃい」
扉の開かれたところには廊下の窓から差しこむ月明りで逆行になって(というより瑞樹のいる部屋には窓がなく、液晶画面も今は電源を入れていないせいで真っ暗だからだ)確認できないが、来訪者の服装はシャツにスキニーといたってラフだ。私服であるが、彼はこの学園の立派な生徒である。
「ようこそ、皇帝」
にこり、と笑めば、用件は何だ、と一蹴された。まったく、面白味のない男だ。
「嫌だな、そんな怖い顔しないでよ。すこし頼みたい事があったんだ」
ふうん、と気のない返事が返る。
「まあ、聞いてよ。是か否か。それを決めるのはそれからで構わないから。ちなみにこれは取引だ。こちらからの依頼料は一部を除いての華人ランクまでの情報開示とある程度の情報は頼まれれば無償で引き受ける。どう?悪い話じゃないと思うんだけど?」
あごを引いて苦々しくといったふうに先を促すので、瑞樹は口元をにんまりと歪めた。
「依頼内容は――…」
来訪者を見送って。瑞樹はほくそ笑む。
すべては予定調和だ。あの子はきっと彼に惚れこむのだろう。あの子が求める最上を持ち合わせているのだから。
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