月花に謳う
22
「あ、いらっしゃい、柚木〜」
会計ののんびりとした甘いトーンの声。こういう声は嫌いだ。媚びるくらいなら恥じらう方がずっといいと思う。眉間に皺が寄りそうなのをぐっと堪えた。貴族ランクへの者の不敬を買いかねないから。
生徒会室は親衛隊の子たちからちらりと聞いていたとおり豪奢で、洋風のアンティーク調に設えられていた。いたのは会計と書記の二人だけ。
「ん〜、柚木?その二人はだあれぇ?」
「俺の友達だぞ!おんなじクラスなんだ!」
どうしてこうも一々声が大きいのか、頭が痛くなりそうだ。今度は溜息を吐きそうになるのを堪えて苦々しい顔になっていると、冬吾が耳打ちをしてきた。
「なあ、悠璃。お前大丈夫か?こういうの苦手だろ」
「大嫌いだよ、たぶん性に合わないんだろうね。一刻も早くここから抜け出したい…」
「体調悪くなったら言えよ、どうにかするから。しばらく出て行けそうにないしな」
「ン」
冬吾は俺のように進んで華人に近づいて行くようなことはしないけれど、コレクションの子の誰かから俺の話を聞いていたのかもしれない。こういうところは疲れる。俺はもろに体調に影響が出るタイプだからいろいろと厄介だ。
ソファに腰を落ち着けたところで、生徒会室の扉が開いて生徒会長と副会長、少し遅れて庶務も部屋に入って来た。
「あ?誰だ、こいつら」
「柚木の友達らしいよ〜」
こちらに気付いたらしい会長が頭をガシガシとかきながら、ちらりと視線を寄こして言い、奥のキッチンから顔を出した会計が答えた。
生徒会室は各役員の置かれる執務室と仮眠室、キッチンの三つに分かれている。ぶっちゃけ、ここだけで生活ができると思う。
会長が俺のちょうど正面のソファに腰かけて、こちらを見て声をあげた。
「…お前、柚木と同室のやつじゃねえか。特待生だろ」
「はい」
「風紀に一応、同室の許可申請は出してあっから、部屋の整理がつくまでそのままでいろ」
「分かりました。」
正式な手続きをされてしまっては一般生徒の俺では敵わない。しばらく我慢するしかないようだった。
それより会長がずっとこちらを睨んでいる。というか、俺が転校生の同室だという発言がされた時点で、部屋中の役員の視線がチクチクと痛いくらいに突き刺さっている。どうやら噂は本当らしい。
生徒会の庶務を除くメンバーが転校生に骨抜きにさている、というのは。
恋は盲目とはよくいったものだ。ただでさえこの学園がスクールカースト制度に縛られているというのに、ただ同室というだけで最高位ランクレベルの人たちに睨まれたんじゃどうしようもない。
はあ、と一つ溜息を吐いた。
唯一の救いは庶務がこちらを心配そうに見つめていることだけだった。
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