月花に謳う
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今日はもう別のひとのところに泊まろうと思っていたんだけど、香ちゃんに引き留められた。他のひとのところに行こうと思っても、その子にも同室者がいるし、そもそも泊まるという行為自体がすでに迷惑をかけている。香ちゃんが他の子たちに声をかけて都合のいい人を探しているみたいだ。でもずっと居候の身でいるわけにもいかないから、そう遠くないうちに瑞樹を頼ることになると思う。
……まあそう思ってた時期もあったよ。
「なあなあ、悠璃も一緒に行こうぜ!」
ああ、何でこんなことになったのか。そう嘆かずにはいられない。まあ大本の原因はこの五月女と同室になった不運だろうか。例え部屋で顔を合わせなくても彼はクラスメートなのだ。そう簡単には逃れられない事象だったのだろうか。
ああだ、こうだと考えていたら、がっちりと手首をつかまれていた。
「ぼーっとすんなよ!ほら、行くぞ!」
俺のバカ。俺はそのままずるずると引きずられて行った。
ああ、そんな心配そうな眼で見ないで、大丈夫だから…たぶん。廊下を通る時にコレクションの子たちの不安そうな表情に目配せを返す。こんな平凡な男が廊下で周りの人たちに笑いかけたら、それこそ「なにやってんだ、アイツ」という視線が返ってきかねないのがこの学園だ。
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