月花に謳う



17




「悠璃の好みじゃない?」

「見た目だけなら、そこまで悪くはないね」


 あまい蜂蜜色のふわふわとした髪の下にあるのは小顔の一見少女にも見える端整な貌(かお)。ぱっちりとした茶の瞳を縁どる睫毛は長い。ならば現在の変装はなぜしているのか、というところに辿りつくのだが生憎と俺は彼に興味がないのでどうでもいい。


「でも、あれだけ礼儀がなってないのはどうかな。」

「悠璃がそこまで言うとは、あれだね。相性最悪だろうね。同室なんでしょ?ダイジョブ?」

「生理的に無理」

「忠告しておくよ。彼、よくないものだ。現時点で生徒会のほぼ全員を落としている。この学園は荒れる。悠璃、お前は同室だから巻き込まれるだろう、容易く想像できるよ」


 薄青の双眸がこちらを真摯に見つめてくる。彼の言うことはよく当たる。


「だからね、無理をする前に誰かに頼りな。俺でなくたっていい、悠璃が仲良くしてるコレクションの子たちでも構わない。人に頼ることを覚えな。」


 優しさに細まる瞳が温かい。いろいろな感情が混ざって、疼痛が胸をつく。すこしだけ、涙ぐむ。


「ありがとう。大丈夫だよ、心配しないでいて」


 瑞樹の手を取って満面の笑みを浮かべた。




* * *



 瑞樹は悠璃の足音を遠ざかるのを聞いて。そっと溜息をこぼした。


「嘘つき悠璃のバーカ」


 苦笑するように。泣き笑うかのように。複雑な表情でひどく寂しげにその呟きは落とされた。



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