月花に謳う



15




「こら。悠璃……ああ、もう。」

「瑞樹」


 もう仕方ないなあ、とぼやいた彼は俺を優しく抱きとめた。

 館花瑞樹(たちばなみずき)。明るい茶の髪は癖毛で、猫科を思わせる吊り上がった瞳は薄い青色。青鈍色と表現してもいいくらいには灰色が濃いその双眸の奥は静かに凪いでいる。輪郭もやわらかな曲線を描いているせいか年齢よりも二、三下に見られがちだが、その実性格はひどく大人びている。愛らしい顔立ちと理知的な瞳のギャップに不思議な雰囲気を感じる者は多いだろう。
 瑞樹は三学年の特級Sクラス。公にはあまり知られていないが、華人ランクと同等かそれ以上の特権を有する、特権階級Sクラス。この階級に属する者は特殊な者が多く、また人数も少ないことからあまり知られていない。なにか、文武以外で特別優れたことがあると与えられる階級、それがSの称号。瑞樹は頗る優秀なハッカーだそうで、将来は政府に関する情報機関に就くんだとか。まあこの学園でも顔を隠して情報の売買やっているけどね…。下世話な話、なかなか儲けているらしい。


「どうしたの、悠璃。まだ入学して二か月ほどだけど、ホームシックにでもなった?」


 瑞樹の匂いに安心する。肩口に埋めていた頭をそっと起こした。


「違うよ。転入生、さっきリビングで鉢合わせて撒いてきた」

「ああ、あれね。あれ、面倒くさいんだよねえ。なまじ正規ルートで入ってきてる分、そう簡単に追い出せないし」



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