月花に謳う



13




 部屋へと入り、手早く必要最低限の教科書やノート類、コンタクトの換え、それから先日仕舞ったコレクションをいくつか取り出して大きめのバッグへと詰めた。ずっしりと重たいそれを肩に掛けて部屋を出る。そして、後悔した。


「お前、誰だ?」


 何故か転校生が共有リビングにいた。クラスでの中心人物を伴って昼食へ行く姿を見送ってこちらへ来た筈だったのだが。
 思わず舌打ちが出た。臍を噛むとはこのことか、と思う。そのことに歯をぐっと噛み締める。正直歯ぎしりでもしたい気分だった。自然、コレクションの入るバッグの肩紐を握る手に力が入った。

 不快さに顔をゆがみそうになるのを我慢して、口端をゆるりと持ち上げて出来るだけやわらかに微笑む。


「同じクラスの霜野だよ。挨拶できなくてごめんね、よろしく」


 申し訳なさそうな表情を取り繕って、それからにこっと微笑む。転校生にも好印象を与えられたのだろう、下の名前については追及してこない。


「なあ、お前はどうしてここに――」

「ごめんね、先生に呼ばれててすぐ行かなきゃいけなんだ。悪いけれど、それはまた今度でいいかな?」

「あ、ああ…」

「ありがとう、それじゃあ。」


 上手く躱せた。心底安堵して足早にその場を去る。



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