月花に謳う
11
「霜野、ほんとにソファでいいの?」
「いいよ」
香ちゃんに客用だという掛布団と枕を借りて、リビングのソファで簡易ベッドを作る。肘掛の部分が倒してベッドにできるタイプのもので良かった。
不服そうにしている香ちゃんに苦笑を一つ。
「だって香ちゃんと一緒に寝るわけにはいかないでしょ?」
「ん?僕は別に構わないけど」
「え?」
さらっと言われたものだから思わず驚いて聞き返してまう。するとやれやれ、というふうに首を振られた。
「霜野は僕をなんだと思ってるの?」
絶対不可侵な相手、かなあ…。口には出さないけれど。
「うーん、言葉では言い尽くせない相手?」
「なにそれ…」
あながち嘘ではない。
ジト目で見てくる香ちゃんに近寄って、肩の手をそっと置いて頬に口づける。肌理の細かな肌はとても柔らかだった。驚いたような表情をする彼に至極綺麗な微笑を浮かべた。
香 side
夜半に目が覚めた。時計を見ると二時少し前。
目が覚めてしまったついでに水でも飲もう。そう思って寝台から床へと足を下ろす。ひたりと床の感触が冷たかった。
リビングに入ると幽かな声。
「霜野?起きてるの」
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