月花に謳う



08




 みんなは俺が誰か愛でる子を増やす度にちょっとだけ不機嫌になる。でも彼ら同士の仲が悪くなることはなく、寧ろすこぶる良い。


「みんな、あんたを独占したいの。霜野は特別なの……僕たちにとっては、ね。」


 特別とか、そんな恐れたものじゃない。そう言うまえに付け足された言葉にぐっと押し黙る。
 だって俺は好きなものを愛でているだけなのだ。大したことをした覚えはないのに、よくみんなここまで俺を慕ってくれていると思う。


「だから僕たちは霜野に則ってみんな平等で抜け駆けすることなんてない。霜野は自分を過小評価しすぎ。」


 ころころと笑う香ちゃんに、こういうと時ばかりはどうしていいか分からずにただ可愛らしい顔を見つめる。


「いいよ、霜野は霜野のままでいて。そうして僕たちを慈しんでくれたらそれでいいんだよ」


 これには頷く。たぶん、少なくともこの学校にいる間にそれは変わらないだろうと思う。変えるつもりもない。
 香ちゃんは満足したように頷いて、再度視線を生徒会役員たちの方へ向け、俺は食事を再開した。


「あ」


 近くの席から生徒の誰かの声が上がる。シンと場が静まりかえり、その一瞬後に鈍い音と、ざわめき。それはすぐに爆発して悲鳴へと変わった。

 嗚呼。煩い。

 ドリアの最後の一口を咀嚼して黙ったまま立ち上がる。香ちゃんがテーブル二つ分のメンバーに目配せをすると彼らも各々立ち上がる。食器の乗ったトレーを配膳のところに下げ、食堂を出る。扉を出れば、頑丈な扉の向こうの喧噪とは無縁だ。



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