月花に謳う



06




「そんなに溜息吐いてると幸せ、逃げちゃうよ?」

「それはヤだなあ…。でも、俺みんながいてくれるだけで幸せだよ?」


 そう言ってうっとりと微笑めば、また何人かが頬を朱に染め上げて、香ちゃんからは呆れたような溜息と頭にチョップを頂いた。痛いよ。


「そうやって色気ダダ洩れな顔しないの。ほら、みんな君にあてられちゃって呆けちゃうって言ってるでしょ」


 そんなことを香ちゃんに言われて。ないよ、そんな色気なんて。と返したいのだけれど、じとりと香ちゃんがこちらを見つめているのでゆるりとその言葉は飲み込んだ。
 香ちゃんから離れて食事にもどる。今日の食事はドリア。猫舌には熱いから今のやりとりで丁度冷めているだろう。はふはふと口に放り込んでいると、突如、悲鳴。ぐっとドリアがのどに詰まる。

 のど、火傷するかと思った…。

 目が涙で滲む。すかさず香ちゃんが背中をさすってくれる。左隣の子が差し出してくれた水を有難く呷って、元凶たろう方向へ視線を向けた。
 この食堂において起こる悲鳴とは大抵、人気のある生徒が入ってきたときに限る。階級制度は厳しいがこうやって騒ぐことは許容されている。だから騒がれている側も嫌な顔こそすれ、階級の力を使って黙らせようとはしない。あまり自由も利かないとかえって逆らおうとする輩がでてくるものだ。彼らは己の立場を理解し、それを弄ぶようなことがあってはならない。階級制度はあくまで社会で上の立場につくことを求められているのであって、支配することを憶えるためではない。あくまで良識を求められ、礼儀と節度を守る。この学校での最たること。



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