月花に謳う



04




 俺の冷やかな笑みを悟ったのか、冬吾は諦めたように息を吐き出した。


「フルネームは五十里冬吾」

「そっか!じゃあよろしくな、冬吾!」


 転入生は満足したようで、口元を笑みの形にしている。
 ああ、でも本当になってない。初対面で相手の確認もとらずに呼び捨てとか有り得ない。
 転入生。是非ともよろしくしたくない存在だ。現に転入生の名前は俺の脳内からデリートされている。
 はあ、と大きく溜息を吐いた。これと授業を一緒に受けなくちゃ……いや、寮室が一緒だから私生活まで一緒なのか。最悪。



***


「今日は機嫌、やけに悪いね。どうしたの」


 昨日と同じく教室にまで迎えに来た親衛隊の子たちと食堂へ向かい、そうしてずっと黙りだった俺に香ちゃんが話しかけてきた。暗黙の了解で香ちゃんは俺の右隣で、その他はローテーションらしい。
 香ちゃんは黒髪にくりっとした目で、クールで実はとてもさばさばとしている。でもそれが俺の香ちゃんを一番気に入っているところ。冷たいように見えて、認めた者には素っ気なくも面倒見がいい。逆に、俺と同じで認めていない者にはひどく冷たい。似た者同士。だからこうやって気になって、傍に置きたくなる。


「転入生だよ」

「ああ、そういえばそんな話もあった。こっち(親衛隊)にも書類はきてる」

「あれ、最悪。関わりたくないけど、同室なの。嫌だねえ」


 頬杖をついてぼんやりとぼやくと、親衛隊の面々から心配そうな顔を向けられる。



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