月花に謳う



03




「なあお前、何ていうんだ!?俺のことは柚木って呼べよ!」


 話しかけられたのはめでたく転入生の隣の席になった五十里冬吾(いそりとうご)。数少ない俺の普通の友人である。ただ彼はバスケの特待生で、中学時代から優秀選手賞なんかをかっさらってきたらしく、階級は俺よりは一個上の特権階級Aランクだ。容姿は爽やかといった感じで、バスケをやっている分、体躯は痩身だが筋肉がしっかりとついている。性格も人当りが良く、クラスからも慕われている。ちなみに二学年に恋人がいるのだが、容姿は平凡だけれど仕草なんかが可愛らしいひとで、俺もなかなか気に入っている(会うたびにフェミニストよろしく接しているので、冬吾は毎度苦笑している)。

 冬吾は愛想よく笑って……いや、あれは違うな。目が関わるな、と告げている。へえ、彼でも好き嫌いはするらしい。やはり人間、誰にでも仲良くしたくない相手はいるものだ。


「俺は五十里。どうぞよろしく」


 頬杖をついたまま、転入生を見上げて顔だけはにこやかに笑んでいる。けれど転入生は気に入らなかったらしい。


「五十里っていうんだな!名前は何ていうんだっ」


 嗚呼、鬱陶しい。俺は口元に弧を描いて傍観を決め込む。冬吾の恨めしそうな眼とかち合う。けれど知ったことか。そんな不潔なの、知ったこっちゃない。俺の好みの真逆にいる存在だ。



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