月花に謳う



02




 派手な見た目をした担任が、いつも不機嫌そうな声をやや弾ませている。ホストと形容されたことがある俺だが、本当のホストというものはうちの担任、各務俊(かがみとおる)のような人ではないだろうか、とふと思った。ワックスで整えた明るい茶髪に、シャツは襟元を開いてスーツの前のボタンも留めていない。シルバーアクセが指輪と首につけていて、顔の派手さもまさにイメージの中のホスト。
 各務(この先生は色々とひどいので、敬称をつける気はない)の隣には不潔な感じの男子生徒が一人。いつの時代の人だ、というほどのボサボサの黒髪、厚底の眼鏡はその向こうの瞳の色の判別もつかない。


「転入生だ。仲良くやれよー」

「五月女柚木だ!よろしくな!」


 第一印象、なんだこのクソガキ。身だしなみもなってない上に場にそぐわぬ声の大きさ。礼節が全くもってなっていない。
 この学校において、一番大切なことはたぶん、身を弁えることだ。スクールカースト制度の意識が根強いこの学校において階級は絶対だ。上の階級から命令をくだされれば逆らうことは難しい。親衛隊の華人ランクの人たちと親しくしているけど、彼らがそう接することを許してくれているからだ。拒絶されれば俺は関わることすら許されない。この学校は縦社会なのだ。ランクが上がるほど会社でいう役職が上がるものだと考えれば分かりやすいと思う。そしてここは本当に会社というわけではないので、実力もだがまずは年功序列だ。先輩は敬う、は常識だ。敬語は無論のこと。
 俺は一番後ろの廊下側の席だから、みんなの顔が見える。一様に眉を顰めている。


「柚木、お前の席は窓際の一番後ろだ」

「おう!」


 この教室は四十人、転入生を入れて四十一人。六人×七列で最後列は両端を抜いた真ん中五人が席に着いていた。(俺がいるのは窓際最後尾だ)けれど今は窓際、俺の後ろに一つ席が追加されていた。

 転入生が席へ向かう途中、窓から差し込む陽光がシャツの襟元について階級バッジがきらりと反射する。色は青。華人だ。他のクラスメートたちも気付いたのか眉間の皺が深くなった。



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