月花に謳う



01




 先日、梅雨入り宣言が出た。

 雨は好きだ。けれどあの鬱屈とした雰囲気は嫌いだ。雨というものは人によって好き嫌いは分かれると思うが、俺はなにより香る雨土の匂いと音が至極好きなのだ。それに雨上がりの水溜りに反射するきらきらとした陽光、気まぐれな虹もまた美しい。雨も俺の中の綺麗なものの一つ。
 しかし雨というものは好き嫌いが分かれるため、憂鬱で仕方ないひともいる。そのどんよりとした空気だけは頂けない。

 梅雨入り宣言と同時に来た転入生はそれによく似ていた。

 五月女柚木(さおとめゆずき)。カースト制によって分けられた生徒たちが満遍なく配置されるこの学校において、よりにもよって一年三組――うちのクラスに転入してきたのか。学園の采配を恨まずにはいられない。さらに述べれば、同じクラスで特待生として一人部屋を与えられた俺の部屋に、部屋を調整するまでの期間は同室だということを知らされたときの衝撃といったらない。
 とりあえず、知らせを受けた時点で俺は空き部屋に詰め込んでいたコレクションたちを自室の棚やタンスに押し込んだ。できればそれらは誰にも触れられたくないから隠しておく必要があったのだ。


 かくして迎えた今日という日は、今までの中で一番『不快』な一日だった。日々を積み重ねればこれが些細なことだったと気付くのはまだ先だ。



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