月花に謳う



04




 綺麗なものと美しいものが好き。それは人として当然の心理なのだろうが、俺の場合はきっと度が過ぎる、もしくは極端過ぎるのだ。それ以外に関しては自分を含め、一切の興味がない。付け加えておこう。その綺麗なものというのはものでも、人でも構わない。人の場合は外見が良くても中身がダメならアウトだ。
 この学校に入って、予想以上に容姿の良い者が多く日々眼福だ。高等部からの外部編入にも拘わらず、クラス内の持ち上がり組で生徒会親衛隊所属者に声を掛けたのは単に愛でようと思ったからだ。そこには階級制度など関係ない。むしろ外部入学で入りたての自分には全くの自覚がなかったのも手伝っていた。声を掛けたクラスの子から芋蔓式に隊長たちに辿りつけたのは幸運だった。流石、隊をまとめるだけあってその容姿も一際整っていたからだ。かといって、その中で一番や二番など順位をつけるつもりは更々ない。皆平等に話を聴いて、慰めて、頭を撫で、甘い言葉を吐いて一緒に過ごす。それはただ愛玩動物を愛でるかの如く。
 そういえば誰かが言っていた。貴方はまるでホストのようだ、と。嗚呼、でもその通りかもしれない。甘い言葉を囁いて、空事で飾って、そうやってその心に入り込んで…。


 もし俺に、俺の中で一番という順序がつけられるその人が現れたときは多分、いやきっと俺はその人に全てを捧げるのだろう。なんとなく分かる。そういった血筋であるというのもあるけれど、もっと根本的に俺はきっとその美しさに抗えないだろうと思うのだ。

 だけど、まだそれが見つからない今は。自分のお気に入りたちをうんと可愛がってこのどうしようもない精神を満たそうではないか。だから今日も今日とて、お気に入りたちが望む言葉を口にして幸せだと微笑む。






 このときの俺はこの穏やかな日常があとすこしで崩れるとは露ほどにも予想していなかった――。



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