月花に謳う



03




「心配くらいしますよ。倒れたって聞いたとき、すんごいビックリしたんですからね!」


 そう声を上げたのは副会長親衛隊隊長の若潮千波(わかしおちなみ)だ。副会長は親衛隊を毛嫌いしていて、生徒会親衛隊の中では一番不憫な隊だ。けれど、だからこそそんな千波は人一倍人恋しかったのだろう。悠璃にその中性的な容姿を買われて、どろどろに甘やかされて、心酔するかの如く悠璃を慕っている。

 悠璃が倒れたのはなにも初めてのことではない。高等部が始まって早二か月。既に一度倒れている。二回とも食事を摂らなかったことが原因だ。空腹は満たされればいい、しかも悠璃の場合はカロリーを摂れば空腹は満たされると言って栄養補助食品で済ませてしまう。貧血を起こして体育の途中に倒れた。二回ともだ。このテーブルのメンバー―全員親衛隊員だが―で最初に倒れたときに散々心配し、なかには説教した者もいたのだが。如何せん、彼は自身が美しいと認めたもの以外に良くも悪くも興味がない。皆で話し合った結果、悠璃の食事に誘おうという話になり、現在に至る。


「反省してよ、霜野。お願いだから…。」


 呆れたように言う香に周りはうんうんと頷くが、当の悠璃は素知らぬ顔だ。穏やかに微笑んでいる彼は悪びれた様子がないのはやはり自身に興味がないからだ。

 けれど彼は、


「君たちがそう言うのであれば」


 彼らを甘やかすときの慈愛に満ちる黒瞳で、心にもない言葉を嘯く。すべては自分たちが望んでいるから、そんな単純な理由で。



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