月花に謳う



02




 高等部第一食堂、一階。ちなみに校舎にあるのが第一、寮にあるのが第二食堂だ。食堂は昼食をとるために生徒で溢れかえり、他愛ない話に彼らは花を咲かせる。
 その目立たない隅の方。見目麗しい、可愛らしいや綺麗という言葉が合う生徒たちが集まっている。人数は大きめの円状のテーブル二つほど。けれど、半分以上が華人ランクの容姿の者たちで、そうでなくともなかなかに端整で見る分にはかなり華やかだ。


「ほら、霜野。きちんと食べて」

「分かってるよ。みんなもよくやるよねぇ…」


 艶々とした黒髪の小柄で可愛らしい少年が、隣に座る地味な霜野と呼ばれた生徒に釘を刺す。やわらかな猫っ毛はすこし長く、眼鏡の奥の瞳は優しく細められている。ただ小柄な生徒――生徒会親衛隊隊長総括の藤宮香(ふじみやかおる)は霜野は存外、綺麗な容姿をしていることを知っている。いや、この二つのテーブルに集まっている者全員が知っているだろう。睫毛はけぶるように長く、制服の裾から覗く首や手首が華奢で白い。ときどき肌蹴ているシャツの襟元から覗く喉元や鎖骨には妙な色香が漂う。極めつけは彼自身の性格、というより本質。


 霜野悠璃(しものゆうり)という人物はひどく魅力的だ。なにか特別秀でているわけではなく、かといって文武両道で菓子作りが得意といった風に優秀だが、容姿はぱっと見平凡だ。けれどひどく惹きつけられる、近付いて初めて分かる魅力。ここに集まっている者の中にも一度でもいいから霜野に抱いて欲しいと思う者がいるに違いない。この人は綺麗なもの――気に入ったものを平等に愛でる。彼に特別は存在しない。皆、平等に扱う。彼に一番も二番もない。だからこそ彼の特別になりたいと願うのだ。それは親友だっていい、恋人だってセフレだって構わない。そう焦れったく思わされる。救いは彼の美しいものを愛でる精神があまりに甘く、そしてそれ以外他に関心を示さないというところだ。



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