月花に謳う
10
「そんなこと、あるわけない」
「反省してくれてるならいいよ。次から気を付けて。今は親衛隊も霜野の護衛に入ってるんだし、僕たちも振り回されっぱなしじゃいられないんだよ」
「ありがとう、香ちゃん。本当に、感謝してる…。香ちゃんも、親衛隊のみんなにも今度なにかプレゼントさせてね」
「楽しみにしてるよ。ほら、そのゴミ袋貸して」
「え、いいよ。ゴミなんか香ちゃんに持たせられない」
「ほら、言ったそばから。僕はほぼ手ぶらなの、それに霜野よりかは非力じゃないと思うよ?そんなに蒼白い顔して何言ってるの、ほんとに。保健室寄るからね」
「えぇ…」
さっとこちらの手の中からゴミ袋をさらって、手提げのなかからすっとこちらに差し出してくれたのは日傘だった。白を基調にして淡いベージュで蔦のような幾何学模様が絡みあい、波を打つように可愛らしい縁取りで見るからに女性ものだ。布地もしっかりしていて、模様も美しい。綺麗だけれど、香ちゃんの趣味じゃない。窺うように隣に視線を向ければ、苦笑しながら説明してくれた。
「言っておくけど、僕のものじゃないからね。霜野を探しに行くってなったときに若潮が渡してくれたんだよ。霜野にそのまま渡すように託ってるから、このままもらってくれる?」
「そっか、千波ちゃんが……ふふ、嬉しい。」
白い傘の下、ぼんやりとできる陰のなかで悠璃が淡く、はにかむように微笑む。どこかへ消えていきそうなほど儚く見るのは彼が傘のなかに捕らわれているからだろうか、それとも優れぬ顔色のせいか。
楽しそうな悠璃に香は仄かな不安を感じて、彼を日傘の下に収めたまま目的地へと並んで歩いて行った。
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