月花に謳う



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 その夜、香ちゃんにメッセージを送った。会って直接愛でたいから、その言葉は胸の内に留めて。シンプルにありがとう、とそれを皆にも伝えて欲しいという言葉だけを綴って。
 返信はすぐに来た。

『だから言ったでしょう、ばか。僕たちは霜野の力になりたいんだって。何かあったら僕か親衛隊の子たちに直接連絡して。遠慮なんかしたら怒るよ。みんな、心配してるんだから。霜野の言葉は僕から皆にきっちり伝えておく。』

 香ちゃんらしい文面だと思う。あとばかって平仮名で書かれているところが何だか可愛く見えて、笑ってしまった。香ちゃんに言えば拗ねちゃいそうだから内緒だけど。
 皆が心配してくれている。その事がささくれていた心をじんわりと温めてくれる。


「遠慮かぁ……遠慮、なのかな…」


 大切なものを傷つけたくない。巻き込みたくない。守りたい。
 そして、大切なものの前では自身が強くありたい。それが自身の美しいものたちへ対峙する上での礼儀だと思っているから。一種の矜持にも似たそれは悠璃のなかで決まりきったことだ。
 そう思って遠ざけたけれど、どこかで遠慮していた部分があったのかもしれない。コレクションの子たちは平等に接するからこそ、一線を引いているとも言える。あるライン以上は誰にも踏み込ませないし、自分も踏み込んだりしない。悠璃がコレクションの子たちに優劣をつけないのは皆がそれぞれ違った美しさを持つからだ。例外は月花だけ。

 寄せられた信頼に、行動してくれた彼らに応えたい。己だけでもがくのではなく、自分のために行動してくれる彼らにすこし、預けてみてもいいのかもしれない。何より、自分のためを思って行動してくれる彼らの想いを無碍に出来るわけがない。
 遠慮していたとも言えるし、必然的にそう言った部分を感じさせてしまったとも言えるのか、またちょっと違うのかもしれないけれど。香ちゃんの気遣いが嬉しくて、胸の内の蟠りがほぐれるようだった。そのおかげか、久しぶりに穏やかな気持ちで就寝することができた。



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