翠雨 | ナノ


翠 雨  


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葡萄石:3



「翡翠、翡翠。俺の翡翠。大切なたからもの」


 幼心ながら分かっていた。兄弟。血がつながっている。ましてや男同士。許される関係ではないと。知っていたけれど。胸の奥にある温度は一向に冷めてはくれず。だから僕たちは身を寄せ合い、確かめるように慰撫をした。
 顔を寄せ合い、脣をふれ合わせて、指を絡めてつながり、身体を密着させて熱を共有する。このどうしようもないくらいに痛む胸の熱をどうにかするために僕たちは何度もそれらを繰り返す。

 床に向き合って寝転んで、手足を互いに絡めて心音を聴く。顔を上げると視線がかち合って自然と顔を寄せる。紅唇の表面をなぞり、吐息の震えを感じる。けれど、心のどこかで感じる罪の意識は行為をいつもそこまでで引き留めた。他愛もないバードキス。慰め合うように、けれど視線が至極雄弁に熱を乗せて。持てるあらん限りの熱を交換していた。

 こうした戯れは両親の寝静まった夜毎、まこと密やかに行われていた。奇しくも小学生も高学年といったところであるが部屋が別にされなかったのは幸いだった。毎日というわけではないけれど、かなりの頻度で行われる密事は胸のうちの狂おしいほどの熱を吐き出すために他ならない。そうしないと求めすぎてお互いどうにかなってしまいそうだったのだ。日付を置いたときには荒っぽさが混じって、肌に噛み跡を残すことになる。見つかれば喧嘩をしたのだと言えばいいのだろうけど、罪悪感にさらに嘘を重ねることは良心に憚られた。だからそうならないように、二人は行為を重ねる。



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