青虎眼石:空白
六年間、心は空っぽだった。琥珀のいない空白の時間。やっとその空白を埋める存在が戻ってきたのだ。もう一度離れることがあったら今度はきっと壊れてしまう。何が?って胸の奥のナニかが。
どうしたって琥珀のそばにいることだけは譲れないんだ。
「そう」
彼は静かにそれだけ言って、眉をきゅうっと顰めると去って行った。
今はもう荷物置き場と化している自室にもどり、必要な荷物をカバンに詰め替える。
自室を出ると、ちょうど帰って来たらしい久住と鉢合う。お互い、ちょっと驚いて目を見開く。
久しぶりに会った気がする。最近は琥珀のところに泊まりに行っているし、自室の共同スペースでなかなか会わなかったから。
「久住、僕今日もいないから。それじゃあ」
どこへ、だなんて言わない。たぶん分かっているのだろうし。
「……なあ、」
玄関を出て行こうとして掛かった声に足を縫い止められる。
「お前、いま幸せか」
なんだそんなこと。
僕はうっとりとこれ以上にないくらい穏やかな笑みを浮かべて告げた。
「今までで一番幸せだよ」
これ以上にないくらいにね。
そう付け足して久住の方を振り返らずに部屋を出た。だから久住が渋面になっていたことを知らない。