青虎眼石:親衛隊
また、だ。最近、こんなことが多い。
更衣室、ロッカーの前。見せびらかすようにうちすてられた自分の体操着があった。泥にまみれて茶色く、持ち上げればべたりと泥が落下した。
ロッカーの鍵をたまたま閉めま忘れて、取られるものなんてないと思ってそのままにした翌日。それがこの有様。
副会長が言ってたようなことが早速起こったのだろうか。ずいぶんと行動が早いな、なんて他人事のように思う。
どちにしろこの体操着は使えない。購買で新しいのを買うことにして泥まみれのそれはゴミ箱へと無感情に投下した。
親衛隊?制裁?――なんて、バカらしい。
琥珀といられることに比べてその嫌がらせの優しいものか。他人ならいじめだと泣きそうにでもなるんだろうか。けれど僕にとってはとてもちっぽけなことだった。
たとえ、教科書やノート、机なんかが中傷誹謗のらくがきに晒されても、中身は無事なので特に気にはしない。あとは琥珀に知られなければいいだけ。琥珀に知られたら面倒くさそうだもの。それに本当になんとも思わないのだし。
そんなふうにぼんやりと過ごす昼休み。琥珀は用事があるとかで昼休みの間は会えない。
教室内で弁当や購買派は極少数で、教室は僕以外は誰もいなくてがらんとしている。休み時間の喧騒はどこか遠く。この空間だけ剥離しているよう。
ただぼーっとするだけ。この空間に溶け込むように。
静寂を打ち破ったのは教室のドアの開閉音。机に突っ伏したままでいると、彼の人物は僕の机の前で停止した。影が落ちる。
「ねえ、ちょっといい?」
突然の訪問者。見知らぬその顔に翡翠はそっと頷く。
「君、どういうつもり」
整った容貌、たぶん綺麗という分類にされるだろうその面立ちは険しい。あからさまな嫌悪するような表情。隠す気はないようだった。
「どういう、とは……?」
「ああ、ごめん。言ってなかった。僕は三年の沢本。生徒会会計の親衛隊副隊長だよ」
「……琥珀の、」
親衛隊。
本人を前にしてその存在がやっと現実味を帯びたような気がした。