青虎眼石:雰囲気
昼休み。生徒会長席の真後ろに位置する開き窓から裏庭は窺える。
木附と御影はどうやらそこを密会場所に選んだようだった。確かに知っているのなんて極わずかなもんだろう。けれど来るかもしれない来訪者に二人は身構えてはいなかった。
二人はひとつしかないベンチに隣り合って腰かけ、木附が御影の方を抱き寄せている。その距離がなんというか、その、ひどく近いのだ。今まで自分から興味をもった人物のいなかった彼が。自然にやわらかく笑み、仕草ひとつもやわらかだ。
あの、木附が。
半ば驚愕にも似た心境で窓から二人を見下ろす。
二人の顔が近付く。
コイツらはそこが生徒会の真下で、生徒会連中には丸見えだって気付いているんだろうか。……いや、気付いているな。
口唇を合わせたまま、木附がちらりとこちらを見た。一瞬だが確かだった。
バツが悪くなって、窓を閉めて背を向ける。深く溜息を吐き出すと、お茶を用意していた篠原が首を傾げた。
「どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたもねぇだろ。木附と例の一年だ。ほら」
窓を指せば、篠原がそっと窓の向こうの光景を認めて、嗚呼と頷いた。
「何ですか?欲しかったんですか?翡翠くんを」
先輩、面白い後輩見つけたって楽しそうでしたもんね。そうぼやく篠原に思わず渋面になった。
「そうじゃねえよ」
歯切れの悪い返し。けれど恋人にしたかったのか、と問われればそれは即答で否と断言できる。ただ――
「アイツらのまとう雰囲気が……」
ひどく危ういものに思えて。
口には出さなかったが、篠原にも伝わったのだろう。ただ黙って深く頷いた。