青虎眼石:夜
夜と雨が嫌いだ。
雨の日は左眼が痛いし、一人になって琥珀がいないことを思い知らされる夜が嫌いだ。
「翡翠。どうした、目が痛む?」
「うん、ちょっと」
深夜。左眼の痛みで目が覚めた。ツキツキと痛む。視界が滲んで涙がこぼれた。
「冷やすものを取ってくるから」
寝台から出ようとした琥珀のTシャツの裾をつまんで引きとめる。その腰に腕をまわして頭をこすりつけた。
「いい。琥珀が傍にいてくれればいい。」
「でも、痛むだろう」
「いいんだ。しばらくすれば落ち着く」
「そう?」
琥珀の手がさらりと僕の頭を撫でる。覆いかぶさられるような態勢で背中と腰に腕をまわされ、引き寄せられるようにしてキスをした。舌をのばして吸ったり、口蓋や歯に忍ばせてみたりする。
「んぅ…」
つーっと左眼から涙が伝い落ちた。次いでほろりと右目からもこぼれる。
「はあ…っ。あ、こは―ン」
すこしの息継ぎの合間。琥珀の名前を呼ぶ前にくちづけが再度降ってくる。
先程より激しい舌先の愛撫。はしたない音に徐々に体温が上がる。
シーツに身を沈めて、今度はこちらが琥珀を引き寄せる。首のつけ根に手の平を這わせて。熱くてすこし汗ばんだ肌。かすかな脈動。匂い。感じられるすべてに、じわじわと愛しさがこみ上げて、指先にぐっと力が入った。
「はっ、……翡翠?」
「ん。ごめん」
訪れた痛みに咄嗟に身体を離した琥珀にあまい余韻に浸りながらも謝罪する。琥珀の指先が目尻をそっとなぞった。
抑えきれない愛しさという名の衝動だった。
「血、出たかも」
「大丈夫だよ」
そう微笑んだ琥珀の顔がそっと首元に下りてきて、襟元のシャツをたぐられる。今着ているものは琥珀のものだからすこし大きい。そのせいで鎖骨とその下、胸の上部はたやすく晒された。その胸の上部、中央の左寄りに、こち、と琥珀の歯が触れた。心臓が埋まっているだろう場所、そこに。
「あ、」
ぐっと力強く皮膚に歯が立てられた。瞬間的な痛みが奔り、そこを舐められてあまい疼きに腰がピクリと跳ねて、熱っぽい吐息が漏れる。
「これであいこ」
なんだか可笑しくなって二人してちいさく噴き出す。
それからはお互いの身体に舌と歯を這わす、じゃれあいのような愛撫に変わった。
目の痛みはいつの間にかひいていた。