青虎眼石:2
副会長は紅茶の入った自分のカップを傾けながら口を開いた。
「御影くん。御影くんと呼んでもかまわない?」
「いえ、下の名前で呼んでいただけた方がいいです」
だって御影は琥珀と離れたっていう証のようなものだし。僕だってもとは木附だった。それにこうして二人でいればあの頃に戻ったようで、昔のように名字が一緒だったころのように下の名前で呼び分けて欲しかった。
「じゃあ翡翠くんだね。伝言のことだけど、木附先輩と会えて良かったね?ここには木附先輩がいると知って入って来たの?」
「いいえ、全く知りませんでした。集会の会計紹介のときに初めて知ったくらいなので。あの時はずいぶん驚きました…」
「そうなの?」
琥珀の問いに、うん、と頷き返す。
「そう……なら本当に偶然だ。」
琥珀のその言葉はまるで――僕たちの再会は必然だった。運命だった。――そう言っているように聞こえた。本当に。会えて良かった。もしかしたら一生会えず、お互いを想い続けて生きていたかもしれないのだから。それは切なさに縛られた地獄のような時なのだろう。そのことを考えると確率的な奇跡にぶるりと身が震えた。
「翡翠くんも木附先輩と仲がいいようだから色々言われてるみたいでごめんね?この学校にはそういう風潮があるから。ちょっと僕たち生徒会じゃどうしようもないから我慢してもらうしかないんだけれど…」
「いいえ」
きっぱりと首を振る。そして口元をほころばせた。
「僕は琥珀と会えただけで十分なので。それくらいはどうってことないんですよ」
琥珀さえいればもう何もいらない。ずっと欲していた。飢餓感が満たされてそれで他には何があるだろう。
「そう…。でもこれからすこし大変かもしれないから気を付けて」
「はい」
それくらいはたぶん、琥珀を失うことに比べればとてもちっぽけなことだろうけれど。内心でそうつぶやいて、カップに口をつけた。甘くて優しい味だった。